第二十九話 多妖 ハデスの胎動
ワルレー軍卿は
「カトー大佐、ハデスの様子を見に行く。乙姫を連れて来い」
と告げた。
「承知」と、答えたカトー大佐が背後の板壁に手を触れる。
この応接間にはいくつかカラクリが仕掛けてある。
一つは
一つは今回のような重要人物との会談の際の盗聴部屋。
最後の一つが、竜宮城の地下に広がる“
「波動――」
ガチャリと音がすると扉が開くように押し広がった。
すぐ裏手の隠し部屋へ入ると、二度チリンチリンと鳴る
「近衛隊、乙姫を神殿までお連れしろ」
と告げて棚の引き戸を開けると
「待つ間に
と、若き上司へ隠し部屋から着替えを取り出して渡した。
――――程なくして。
小刻みに震えるオトワニ女王を前後にはさんで、二人の男が石造りの堅牢な廊下にカツンカツンと
「
震える声を抑えて乙姫の必死の訴えは続く。
「仮に復活させてしまえば、誰もあの
途端にワルレー軍卿が乾いた笑い声を上げる。
「あなたも死ぬ? 私も死ぬ――とは
「馬鹿を
「我らの諜報力をなめてはいけませんぞ。王家の“秘伝”にその手法はある」
先頭を歩いていたワルレー軍卿はクルリと振り向き、鼻が触れ合うほどに顔を近づけた。
「なぜなら“
ゆえにコントロールできる術はある、と言いつつ少し顔を離すとニヤリと笑う。
「女王……あなたをそのために生かしたのだ。聞けぬというなら、あなたの愛しいシズ姫に代わりをやってもらう」
と言い放つと無表情になり背を向けた。
「たとえそれが呪いの技であってもね。“ラの国”の脅威を跳ね返すために王族が命をはる――美しい話ではないですか」
ハハハッという乾いた笑い声が地下道に響いた。
――――長い階段を下ると。
現れたのは体育館くらいの開かれた空間。
乳白色のその物体は地に刺された
近づくほどに頭の芯に痛みが走り、体が重くなっていく。
「
ワルレー軍卿がうめいた。どんどん頭が重くなっていき額と両手を地に伏せる。
「¥&@~<>$#%」
『魂をよこせ――まだ足りぬ』
女の声がそれを代弁する。
見ると乙姫の両眼が見開かれ、その白い肌に無数の文字が浮かび上がっていた。
『魂を……』
長い髪が逆立ち顔面にも広がった呪いの文字が、流水に
『
乙姫の体から四方に影が伸びていく。
その影が裂け無数の手が湧き出るように伸びてきた。
『『寄越せ』』
地下室が地の底から響く声で満たされていく。
と、カトー大佐が動いた。
「波動――
パチンッと乾いた音が弾けると乙姫の体が崩れ落ち、無数に湧いた手もかき消える。
「まだ復活には足りぬか?」
ワルレー軍卿は
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