第二十六話 波動、緊縛


「逃すなッ」


 そのコマンドはアリのように群がる追っ手に放たれた。

 振り子飛びターザンジャンプで空中を滑空かっくうしているっていうのに、ビュンビュン矢が飛んで来て、目の前には四メートルはある城壁の壁がグングン迫ってくる。


「うわぁぁぁぁ――っ」


 振り子が城壁を超えたと、と思った時、腰から短刀を引き出しウィンチの糸を切った。

 そのまま上空へ投げ出される。

 五、六メートルは飛んだだろうか?


(落ちることを考えておらなんだ!)

 なんで? 馬鹿なの?


 今、上空で仰向け。

 ゆっくりと裏返って頭が下↓。放り出された慣性はいつかは重力と均衡がとれて姿勢が止まる。


「死ぬっ」←オレ

「死ぬっ」←クロウさん

「「死ぬぅ――っ」」←オレとクロウさん。


 頭を下にして落下するその間、小さかった頃の怪我をして泣いてた場面を思い出した。

 

 あ――これが走馬灯……。

 きっとこのまま頭がスイカのようにグシャリ――と思ったとき。


「ふんぬぅっ」


 分厚い筋肉が落下の衝撃を受け止め、ゴロゴロと転がった、


「ぬっ?」

 と見ると七郎(弁慶)さんが、落ちてくるオレたちを受け止めてくれていた。


「いざ退きましょうっ」

 七郎(弁慶)さんとオレは、城壁の向こうから聞こえる怒号どごうを尻目にスタコラと逃げ出した。

 

「どうせなら女子おなごが受け止めてくれた方が良かったがの」

 と悪たれるクロウさんにムッとする七郎(弁慶)さん。


「じゃが七郎っ、助かったぞぇ」

 並走する七郎さんの肩をバンバン叩いた。


――――で、夜道を駆けていると。


 月明かりしかない灯りの消えた街並みに、黒い人影が立ち塞がった。


「何ヤツ?!」

 七郎(弁慶)さんがオレをかばうように前に進み出る。


「近衛隊長カトー・タイゼンである」


 と声が聞こえた瞬間だ。パチンッ、と体が弾けた。


「ぬおっ」

「ぬぅっ」


 オレと七郎(弁慶)さんが弾き飛ばされ、道に転がった。


「あの時の男……かの」


 ゆっくりと起き上がりながら波動を流し、硬直した筋肉を戻していく。

 これはさっき屋根の上でくらいそうになった『波動、緊縛きんばく』だ。

 現代で言うところのスタン・ガン?


「“波動”があふれ出ているぞ“渡来人”よ。

 まだつたないと見える。

 貴様らを捕えて一網打尽いちもうだじんと行きたかったところだが」

 と言うと腰の剣を引き抜く。


「始末しろとのワルレー軍卿のご指示だ」


 剣が月光を反射してピカリと光る。

「――だが、大人しくばくにつくのなら、命を助けてやらんでもない」


 さぁどうする――と、ゆっくり近づいてくる。

 短刀はさっき落とした。

 唯一の武器は七郎(弁慶)さんの持つ薙刀なぎなただけ。

 ならば――


「あとは任せたぞぇ」

 と波動、隠遁いんとんを発揮した。たちまちあたりの風景に同化し、一切の気配を断ち切る。


 きっと敵には見えないはず。

 だけど、このまま七郎さんを見捨てて逃げるのも嫌だ。


 承知――と七郎(弁慶)さん。

 二人の間が見る見る縮まっていく。


「ふんぬっ「おうっ」」


 二人の掛け声が交錯した。

 キンッと刀と薙刀なぎなたがぶつかり合い、火花を散らす。


「波動っ、舜歩しゅんぽ

 とカトーの声が響くと、一瞬で七郎さんの薙刀なぎなたをすり上げ斬りかかった。


 薙刀なぎなたはリーチを殺されると、途端に槍に変化する。

 でカトーの袈裟斬けさぎりを受け止めると、そのまま石突いしずきで足を払った。


 トーンッと飛び退いて構え直すカトー。

 だが、その位置に待っていたのはクロウさん。


「波動、緊縛きんばくっ」


 クロウさんの声が響くとカトーは体をのけぞらせた。

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