第二十二話 シズ姫の居場所

 ワルレー軍卿は「さっさと始末しろ」と手をヒラヒラさせた。


――――そんなことがあったなんてつゆ知らず。


「結局、シズ姫にも乙姫にも会えなかったの」

 と(侍女への連絡手段はちゃっかり手に入れてる)クロウくんが残念そうにしている。

 

「不安であろうにの……」


 とつぶやいたから七郎(弁慶)さんが、渋面を作る。


「見ず知らずの相手を心配するより、御身おんみの心配を――尾行がついておるのに不用意ですぞ」

 と視線は前に、意識は後ろからついてくる監視のやからに。


 そう――宮殿を後にしたオレたちの後ろから、間隔をあけてついてくる影のような気配。

 

 このまま『竜の巣』へ戻ってしまえば、商会ごと危険にさらされてしまうだろう。


 隣のショーミさんが、チラ見でオレを見てくる。

「なぁに、『秘密にしない移動手段』だけは残さないようにしてやるさ」


「……?」


 

「(航海→公開)後悔を残さぬ――と言いたいのであろ? あいわかった」


 わかりにくいよ。でもわかったのかよクロウさん。

 

 視線の先のさも行商人といった風情の二人組が、素知らぬ顔でこちらをうかがっている。

 クロウさん、何かを思いついたのかニヤリと笑った。

 

「ちょうど良い路地がそこにある。罠を仕掛けてやろうかの?」


 と、露天をのぞくふりをして七郎さんとショーミさんを呼び寄せる。


「このかんざしはどうかの? (合図に合わせてあの路地へかけこめ)」


「ちょいと高いな(了解、隠遁の波動は)、他も(使うのか?)見てみらんと」

「ですな(了解)」


 互いにうなずきあって、わざとらしく監視をしている二人を見る。クロウさんが両手を頭に回してひじを広げると

 

「逃げろっ」


 駆け出した。

 それに続く二人。バタバタと路地に飛び込んで駆けていく――ふりをする。


「波動、隠遁いんとん――」


 三人は互いに距離をとると、周りの風景に溶け込み始めた。


「チッ」


 と舌打ちして監視の二人が路地に駆け込んでくる。


「何用かの?」


 クロウさんが声をかけるや否や、ドスッと当身を喰らわせた。同じく七郎(弁慶)さんも、あとの一人を倒している。


「このまま根城で尋問じんもんじゃ」

 とあごをしゃくった。


――――で『竜の巣』


 椅子にしばり付けられた二人の頭を、太郎さんがなぜまわしている。二人とも薬をがされて眠っているところだ。


「さぁ、もう良いでしょう」

 と用意された手桶で手を洗うと、手拭いで水滴を拭った。

 ポールさんが、二人の頬をぱちぱちと叩く。


「う、ううん……」


 目を開けた二人がそのまま大きく見開く。


「こ、ここは?」


「質問に答えろ……。シズ姫は内廷のどこにいる?」


 だが、諜報官としての訓練されているためか首を振り拒絶する。

 ポールさんが太郎さんを見ると再び頭に手を乗せた。


「波動……催眠――なにも怖くありません。ここでのことはあなた方の夢の中の出来事――答えなさい」


 軽く痺れたように体をのけぞらせた二人はノロノロと口を開いた。


「こ、コト姫は……」


 で、シズ姫は内廷に三ヶ所ある資料室の一部を改造した居室きょしつにいるらしい。

 衣食住の世話があるので、月の日、陽の日、水の日、と順番に移動しているそうだ。もちろん、有事に備えてこのローテーションは組み替えられるが、今のところそれはないらしい。


 クロウさんは

「さて、ご尊顔そんがんを拝せねばの」

 とのたまってるけど、ウキウキしてるのを見ると会ってみたいだけだと思う。

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