第二十話 カトー大佐にビビる

「二日後に納品があります。決行潜入はその時に――さっそく準備を」


仔細しさいまかせる」

 とうなず

「さあ、それまでに隠遁いんとんに磨きをかけねば」

 クロウさんは濡れ手拭いを手に、リタさんをじっと見るのだった。


――――案の定、怒られたのは二日前。


 根城を移ってここは、竜宮城に続く道ぞいにならぶ納品業者の卸街おろしまち

 昨日から『問屋 竜の巣』に潜伏している。


 小間物こまものから侍女たちに人気のある絹織物まで取りそろえてある“御用達ごようたし”の店だ。


 店のすぐ裏手で従業員にふんしたポールさんが

「いよいよ準備が整いました」

 と、小声で告げる。

「私は同行できないが、彼なら目端めはしが効くのでお供させると良いでしょう」


 その後ろから

一斤いっきんの銀と一斤いっきんの毛糸玉――どちらが重い?」と顔をだす男。

 お? なぞなぞおじ……じゃなかったショーミさん。

 

 答えはきっと銀。

 比重からいっても銀でしょう?


 七郎さんが顔を上げると

「そりゃ同じだ。どちらも一斤いっきんであろう?」

「正解!」


 うわ……すっげぇはずい(汗)


「それを合言葉に?」

「こちらが銀、内通者は毛玉。『重い(思い)はおなじ』ってわけだ」


 なんだがわからないけど、もうそれでいいや。


 ショーミさん、すっかり商人のなりにふんしたオレたちを見て

「準備は整っているようだな? ついてこい」

 と勝手口の門へ続く道を歩き出した。


――――納品所で。


 勝手口の門をぬけるとコンビニよりちょっと大きいくらいの納品所がある。

 もちろん勝手口の門に入る前の検問所で、身体検査とか身元チェックがあるのだが、そこは隠遁いんとんで認識をうす〜くして乗り切った。


「小麦、とり肉、二百斤ずつでございます。納付書はこちらで、ここにサインをお願いします」

 お役人は、帳簿をつけてはサインしていく。

 時々「む? このまえより高くないか? 割引きせよ」とか

「いやいや――」

 とか納品だけじゃなくて、なかなか商売してる。

 

 その合間をぬって

「毛糸玉を持ってきている者はおらんかえ?」

 と侍女らしき人が声をかけてきた。


「一斤ほど。銀の細工もございますが?」

「いかばかりか?」

「一斤にて」

「宮殿で見せてもらう、着いてまいれ」


 とチラリとこちらを見るとクルリと背を向け歩き始める。


「お? 神木かの?」

 

 と途中、十メートルを超す巨木を見つけると、パタパタとクロウさんが走り出そうとするが「お控えなさいっ」

と鋭く制止された。

 

――――で。

 

 侵入口と脱出口をそれとなく示しながら、王族の眠るびょうのあたりまで来た時だ。


「そこの侍女、なにをしている」

 と黒い立襟たてえりの軍服を着た一団に見咎みとがめられた。


 五、六人はいるだろうか?

 オレたちは検問所で武器になりそうなものは取り上げられており丸腰だ。


「銀細工を持っておりましたので、宮殿で見せてもらおうかと……」

 侍女の必死な笑顔に、強面こわおもての一団が近づいてくる。


「本当か……? やけに“波動”を感じるが」


 一団の中でも、頭ひとつ大きい巨漢が足音もたてずに、するすると近づいてくる。


 短く切りそろえられた髪に、面立ちは少しエラの張った丸顔。

 八の字の眉の下には垂れ目気味だが、冷酷な目。

 ピンと通る鼻筋に、口元はうっすらと無精髭ぶしょうひげおおわれている。


「カトー大佐、拘束しますか?」

 とすぐわきにいる男が聞いて、やっばい感じ。


 ふとオレ(クロウさん?)に目をやると、

渡来人とらいじんか……」とつぶいた。


「良い、行ってよしっ」

 と信じられない答えが。スーパーラッキーなんだけど?!


 コソコソ立ち去るオレたちの後ろから、カトー大佐が

「監視をつけておけ。しばらく泳がせる」

 と小声で指示したのが聞こえたのは、波動のせいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る