第十九話 潜入をしよう

 太郎さんに頼んで借りてきた“言伝ことずての玉”を前にして美少女の映像をじっと見ていた。


「助けて……」

 と鈴を振るような声に、また胸がトクン……と脈打ち苦しくなる。


「試しに会ってみるかの……」

 とクロウさんがつぶやいた。


――――で、その翌朝。


 商社の空き倉庫で、今日も早朝から波動の訓練をしてるポールさんを捕まえた。


「うわぁっ!?」

 隠遁いんとんの術を使って捕まえたのだ。クロウの馬鹿介ばかすけが。


「か、かなり腕を上げましたな」

 焦り気味に引きる笑顔のポールさん。


「のう、頼みがあるのじゃ」

 伊達だてにリタに(悪戯いたずらして)毎日しかられてはおらんわい、と謎の自慢をしてから殊勝しゅしょうな顔をして頼み込む。


「一度、竜宮城へ潜入してみたいのじゃ」


 普通なら「なにを馬鹿な」と一笑に伏されるか、「事を前に軽々しいことはつつしめ」とさとされるところだろう。


 だがポールさんは

「なぜそう思われるのです?」と聞いてくれる。

 なにやら腹案ふくあんがあるようだ。


「城内の様子も見ておきたいのじゃ。ぶっつけ本番では、事を仕損しそんじそうでの」

 ポールさんたちは元々が近衛兵だったから、城内の構造はすみからすみまで頭の中に入っているんだろう。


 だが、オレと七郎(弁慶)さんにとっては、未知の領域だ。

「事件が起こり、あわてて右左がわからぬようなったら、ワシたちが足を引っ張ることになる」

 と訴えると、七郎(弁慶)さんも「それはしかり」と盛んに賛同してくれる。


 もっとも七郎さんこの人は、クロウ義経さんの言うことなら全肯定するんだろうけど。


「わかりました。私に考えがあります」

 とポールさんはうなずき、こちらへ――と訓練を切り上げて書斎しょさいへ連れて行ってくれる。


「これが竜宮城の見取り図です」


 棚から取り出した羊皮紙ようひしを広げて見せてくれた。

 横に長い長方形の建物が三つ並行に並び、三つの建物の側面にそうように縦に長い長方形の建物がある。

 そして、そのそれぞれを回廊かいろうが結んでいる。


「一番手前の建物が外朝がいちょうです。主に来賓らいひん歓待かんたいや国家儀式を行う場所です。ここで“フェリーチェの儀”が執り行われる」

 とん、と正門に一番近い建物を指す。


「その側面にある長い建物が軍部。近衛兵の詰所つめしょもここに」

 とその左側にある縦に長い長方形の建物を指す。


「その奥にあるのが内廷ないていです。主に官吏がめている」

 ここのどこかにシズ姫がいるのか……。

 敷地のほぼ中央に近い。潜入は難しいかな。


「そして一番奥の宮殿。ここに我らがオトワニ女王様(乙姫)が幽閉されています」

 一番奥の大きな建物に指を置く。


「幸い“外魂の玉”がそろうまでは、ワルレー軍卿もお二人には手を出せない。

 まつりごとに不満はあれ、乙姫さま、シズ姫さまは国民に人気がある――ゆえにワルレー軍卿はお二人とその侍女たちを生かしているわけですから、度々その食糧と日用品を仕入れております」

 と内廷ないていの左端にある通用門を指差す。


「ここに取引き業者の納品所があります」

 とん、指差す先に

「ここに内通者を置いておきます。お二人は納入業者にふんして、この内通者の指示に従って頂きたい」


 侵入口と脱出口はここ――と宮殿の侍従たちの出入りする二つの門を示す。

「そして宮殿のかたわらに代々の王族がまつられるびょうがあります。ここも見ておいてください」


「ぬ? ……抜け道かの?」


 クロウさんの問いにうなずくポールさん。


「二日後に納品があります。発覚しても尻尾をつかまさぬよう根城を移しておきましょう。決行はその時に――さっそく準備を」


仔細しさいまかせる」

 とうなず

「さあ、それまでに隠遁いんとんに磨きをかけねば」

 クロウさんは濡れ手拭いを手に、リタさんをじっと見るのだった。

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