第十八話 試しに会ってみるかのう

 パチンっと火花が飛んだ。仰け反る太郎さん。


 いささか強いですが――と前置きを置いてから

「おめでとうございます。“波動開眼”にございます」

 と、おごそかに告げた。


――――一週間くらい。


 毎日“波動”の訓練をしてる。

 毎日、新しい発見があって楽しい。


「おおっ、今波動がグルリと回りましたぞ?!」

 七郎さんなんか薙刀なぎなたに波動を通しては、巻藁を真っ二つに切りさいている。

 

 切れ味が倍になるんだそうだ。


「ひゃっ! もうっ、クロウ様っ」

 悲鳴が上がるのは、クロウさんがリタさんに悪戯ちょっかいをしかけているからだ。

“波動”を使って、こっそりリタさんに近づいては首筋に濡れた手ぬぐいをかけて、喜んでいる。


「そんな悪い子はお仕置きをしてあげますっ」

 と一瞬で逃げるクロウさんのえりを捕まえて、耳をつねあげている。


 ほんと意味わからん悪戯いたずら、何やってんの。

 

 本人いわ

「練習じゃ、練習をしてるのじゃ、周りの“波動”に自分の“波動”をあわせる隠遁いんとんの練習をしているのじゃ。離してたも、離してたもっ」

 らしい。


 空間の波動と同期すると認識しづらくなる――と、関所で認識の波動を解説するポールさんから教えてもらった。

 隠遁いんとんと言うらしい。


「もうっ、晩御飯は抜きにします」

 とリタさん。


 今日で三度目のイタズラ。

『斥候』役のリタさんでさえ、感知できない『隠遁いんとん』の完成度を上げているクロウさんも凄いけど。


 目的が悪戯イタズラじゃ、そりゃ怒るよねぇ。


「リタ殿、リタ殿っ。薪割まきわりでどうじゃ?

 それで手打ちにしてくれぬか? ――飯抜きは勘弁してくれんかの?」

 シオシオと小さくなって懇願するから、つい可愛らしくなってしまうらしい。

 ふんっ、と横を向いてしまうが、目の端が笑っている。


「の? のう? 」

 リタさんの周りを、ほとほと困った、とグルグルまわり顔を合わせようと必死だ。


「すまんかった。リタの飯は美味い、アレは絶品じゃ。アレが食えんとなれば泣きとうなる。の、許してたもれ」

 と捨てられた子犬のような顔で、着物の袖を引くからリタさんの方が根負けした。


薪割まきわりをもういい、というまでやって頂きます」

 どうやらそれで妥協したようだ。


――――で、夕方。


 四月で少し暖くなってきたとはいえ、陽が傾けば少し冷え込んでくる。その中でスパンッ、スパンッと、こ気味良い音が響いている。


「おうっ、悪戯坊主クソガキっ」

 お? あの時のなぞなぞオッチャンだ。

 当初の賓客ひんきゃく扱いがすっかり影をひそめ、もうクソガキ扱いになっていた。

 

「誰がなぞなぞオッチャンだよ? ショーミだ。ショーミ・ナイゼン。覚えておけ。

 しょうもない悪戯イタズラ薪割まきわりやらされ――って、もうこんなに?!」


 見ると割られたまきが山と積まれている。


「拙者も付き合わされておりますからのっ、フンッ」

 隣りで七郎(弁慶)さんまで薪割まきわり。


「波動じゃ。斧の刃先にまで波動を通し、筋をまっすぐに振り落としてやると」

 とスパーーンッとまきは真っ二つに。

 どんなもんじゃ、と鼻を膨らませている。


「もうしばらくは、まきはいらねーんじゃねぇか?」

 と呆れられた。


――――その日の夜。


 無事に晩飯をゲットしたオレたちは、太郎さんに頼んで借りてきた“言伝ことずての玉”を前にしている。


 波動を流し込むと浮かび上がる

『……パパ……助けて』

 と哀願する美少女の映像をじっと見つめて。


 おかしいな。オレの見る夢は違う。

 彼女はオレに向かって、切なげに「……助けて」と言っていた。

 アレとこれが別物だとしても、あの映像なのはなんなんだろうか?


「助けて……」

 と鈴を振るような声に、また胸がトクン……と脈打ち苦しくなる。


「試しに会ってみるかのぅ」

 とクロウさんがつぶやいた。

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