第十六話 人たらし

 手合わせ(実力試験?)の先鋒を買って出たクロウさん。

 一本先取するものの、反撃に出た横薙よこなぎが襲ってくる。

 

 あと一歩――と、踏み込もうとした相手の脛当すねあてがバチーーンとなった。


「クロウ殿、二ポイント。それまでっ」

 審判のポールさんが二人の間に体を入れて中断させるが、相手はすねを抱えたままで動かない。

 

 木刀で“弁慶の泣きどころ”を打たれたんだもの。そりゃ動けないよね?

 

 語源となった七郎さんを見ると、あんぐりと口を開けていた。


「七郎(弁慶)、いかがした?」

 

「い、いや。さすがわがあるじでござる。しかし、拙者も初めて見た動きにて――」

 と、相手とオレを交互に見ては驚いてる。

 オレも驚いてるんだけど――アレは剣道の動きではなくてフェンシングに近い。

 これがオレの記憶を使って試したかったこと?


 クロウさん「軽身術けいしんじゅつで散々、刷り込まれたからの」と軽く胸を張ると、クルリと向きを変えて相手に近寄って行った。


「大丈夫かの? 骨には当てぬようにしたつもりじゃが」

 と、気遣きずかう余裕っぷりだ。

 相手も近衛兵だったんだろう。

 痛いだろうに「気遣きずかい無用」と足を引きりながら、退場して行った。


 ポールさんが驚いた、と肩をすくめると

「続けますか?」と連戦の意思を聞いてくる。


「まだまだ行けるぞ? もそっと試したいこともあるでの」と余裕のクロウさん。


「では――二人目、開始線へ」


 と告げると、今度は少し小柄な相手が出てきた。

 と、言っても百七十はある。

 さっきの人より体格は劣るものの、細マッチョって感じだ。おそらくスピードが尋常じゃないのだろう。


「二人目――よろしいか? 始めっ」


 一人目と違い、二人目の相手はトーンと距離を取った。おそらく一人目で、こちらとの間合いをつかんだんだろう。


 前後に盛んに出入りして、カウンターを狙っている。


「ワシごときに慎重しんちょう過ぎないですか? 次がつかえておりますぞ?」

 と構えをといて笑って見せた。


 挑発と受け取ったのだろうか?


「キェェェ――ッ」と奇声を発しながら、突きを放ってくる。

 

 クロウさん首の皮一枚でそれをけると、木刀を手放し相手の手首を両手でつかむ。

 そのまま脇の下まで体を寄せると、くるりと回りながら腰を落とした。


 キレイに半円を描いて倒れ込む相手。

 それを体をずらして脇を固めると、ひざで相手の肩甲骨を押さえ込む。


「腕を折りますか? それとも参ったをしますか?」

 と告げる。


「参った……」


 少年に翻弄ほんろうされた悔しさか、奥歯がきしむ音がする。

 途端に体を離し、「すまんの、おぬしが強すぎて力の加減ができなんだ。つぎは手加減してくれんかの?」


 とひじを抱える彼にびている。


 コレは合気道の小手返しだ。

 オレも◯チューブでよくチェックしていたからよくわかる。この時代にあるわけのない技だ。

 初見で対応できるわけがない……と言うことで、相手への敬意を伝えたのだろう。


かと思えば、

 

「少し休憩を入れても?」

 とポールさんに断ると

「リタよ、防具のせいで息が少し苦しいぞ。脱がしてたも」

 とリタさんへ甘えに行くクロウさん。


 ますます会場のヘイトが集まってくる。


「お強いのですねぇ、私、強い男性ひとが好きよ。口ばかりで頼りない男性ひとって情け無いもの」

 なんてあおってる。


「そうなのか? ならばここにいる皆は強いぞ。国に牙をいておる。誰一人として、口ばかりではあるまい」


 なんて言うから、ほっこりとした空気が流れた。

 リタさんも「まぁ?!」って言うと、甲斐甲斐かいがいしく防具をはずしては汗を拭ってくれてる。


 義経この人って絶対、『人誑ひとたらし』だ。男女を問わず魅了してしまう。

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