第十五話 クロウさん無双する

 手合わせ(実力試験?)が決まった前日の夜。

 クロウさんが

ぬしは何者なのだ? ぬしの記憶はとてもこの世のものとは思えぬ」

 と問いかけてきた。

「まあ、面白いがの――ぬしの記憶で明日はいろいろ試させてもらおう」

 そう言って眠りについた。


――その翌朝。


 早朝から起こされて、商社の空き倉庫へ案内される。

 いよいよ手合わせ(実力試験?)が始まろうとしている。


 この根城に所属している“乙姫派”のレジスタンスのメンバーも来ているようで、十四、五人はいるんじゃなかろうか?


「ぬ……?! たばられたか?」と殺気立つ七郎(弁慶)さん。

 クロウさんは「見物けんぶつじゃろう。お手なみ拝見、というところじゃな」と、大物ムーブ泰然自若です。


 昨日はどうも……と先に太郎さんが待機してくれていたから、一気に不安は落ち着いた。

 七郎さんを相手に、渡された木刀で少し汗ばむくらいに打ち込みウォーミングアップを始める。


 やがて剣道の防具みたいな一式を持ってきたリタさんと目があう。

 一通り防具の付け方をレクチャーしてもらうと「お手伝いします」と体を寄せてきた。ふんわりと甘い香りが……。


 脛当すねあてをつける時なんか、オレのかかとを膝にのせてかがむから、胸の隙間からYの字がタプン、タプンって。

 

 ワザとやろ?


 そんなオレの目線を察知したのか、上目遣いでフフフっと微笑む。


「すまぬの……手を汚したのではないかの?」

 とさりげなくリタさんの手をとるクロウさんもクロウさんだけど。

 爽やかイケメンに、ふふふっと涼やかに返すお姉さん。


 あれ? 会場の雰囲気が痛い気が……


 見回すと完全にアウェイになっていた。

 これはリタさん目当てで来てる人たちもいるってことよね?


 不穏な空気のまま手合わせの順番を決める段になって、

「ここは私から」と太郎さんが進み出てくれた。

 

「そもそも事の始まりは、私の迂闊うかつさからですから。お二人は、ゆっくりとご覧あれ」と立ち上がりかけた肩を押し留めたクロウさん。


「ワシが行く」短く告げると

「太郎さんは大将だ……とみんな思ってる。一番年少のワシから行った方が、油断するじゃろ?」

 と笑った。


 審判はポールさんだ。

「有効打二ポイントで勝ちとする。よろしいか? 始めっ」


 鋭い声がかかると一気に空気が張り詰めた。


 体格差は一目瞭然いちもくりょうぜん

 クロウさんは百五十センチくらい。相手は百八十はある。並ぶと肩までくらいしかないのじゃなかろうか? 体の厚みだって半端ない。


 体格の違いと、リーチの差――まるで年少の部で出場する選手が成人の部で戦うようなもんだ。

 話にならない、と大半がそう思っただろう。


 だが、パァァンッと打撃音が響くと相手が手首を抱え込んでうずくまっていた。

 すかさず審判をしていたポールさんが、二人の間に体を入れて中断させる。

 

 防具の面の金具越しに見える相手は、腕を振りながら信じられない、といった面持ちでこちらを見ている。

 なにがあった?


 早すぎてライブ目線で見ているオレもわからなかったぐらいだ。


「クロウ殿、ワンポイント。始め」


 声がかかると、クロウさんはトーンッと飛んで前後にスッとステップを踏む。対する相手は左足をやや前に、♾️の軌道で剣を振り、やがてピタリと剣先をこちらへ収めた。


 するとクロウさん、地面スレスレに飛び込んで相手の脛当すねあてを払う。相手は飛び退いてそれをかわすと、猛然と打ち掛かってきた。

 剣先が届く瞬間、クロウさんは前に伸ばした体を後ろへ戻し、ツッと剣を引き寄せかわす。

  一撃目をわされた相手が、振り切った剣を横薙よこなぎに振るうと、さらに上体をそらしてわす。


 あと一歩。

 踏み込もうとした相手の脛当すねあてがバチーーンとなった。


ここまでご覧頂きありがとうございます。もし面白いと思っていただけたらレビューにお星さまをください!

 泣いて喜びます🥲

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