第十四話 波動マスター

 ふわふわと浮かび上がったその黒い塊が中空でパンッと破裂する。

 閃光で目の前が真っ白になり、耳がキィィィィンとなって、思わずその場へしゃがみ込んだ。


「これくらい造作もないくらいです」

 と穏やかに笑った。


 次の瞬間、“ケダモノ”が躍動する気配と、クロウさんの「やめよっ」と叱咤する声。

 

 なにが起こった?

 だんだんと視界が戻ってくると、クロウさんが七郎さんの手元を押さえている。


「すまんな――七郎が怯えてしまったようじゃ」

 そう言いながら、七郎さんの抜きかかった小太刀の柄頭を抑えてゆっくり収めさせている。


 七郎さんは太郎さんに向かい

「いきなりは辞めてもらおう。よし……、クロウさまは我が主にして貴種におわす。危害が及ぶのなら誰と言わず、容赦はせん」

 とにらんでいる。


「これは不用意でした。申し訳ございませぬ」と深々と頭を下げて詫びる太郎さん。

 

 うわっ、ここまで来てなんなん?


 クロウさんの記憶によると平安末期。

 割とカンタンに激高して友人と言わず、家人と言わず殺生していたらしい。

 法律も曖昧あいまいで、そりゃ仏法でもって殺生を抑えるしかなかったワケだ。


 野蛮だわ……。


 義経さんが伏せた=敵襲→殲滅する! って脊髄反射せきずいはんしゃで動いたワケね? 七郎さん。弁慶さんって割と直情型だったんだ。

 そこらへんしっかり心のメモに残しておこう。


 ポールさんも

「驚かせたのはお詫びする。気を取り直して頂きたい」

 と仲介に入った。


「クロウ様がよろしければ」と七郎さんが控えると、クロウさん。

「なぁ、軽く酒でも飲もうよ」と笑う。


常世とこよの国から初めて来た我らには、この国はいささか刺激が強すぎたのぉ。

 互いに“固めのさかずき”くらいかわそうではないかの?」

 と笑った。



ーーー二時間後。


“固めのさかずき”を交わすささやかな宴が設けられていた。


 八人がけのテーブルに、ポールさんはじめリタさんと警護でついてきたなぞなぞ好きな人と、反対側に“常世とこよの国メンバーが向かって座っている。


 ポールさんが運ばれてきたさかずきになみなみと酒を注いで回ると、

「まずは一献いっこん、我らの女王と姫の救出の成功を期して。そしてタロウ殿とその客人を歓迎して――」

 とさかずきかざす。


「「乾杯っ」」

 唱和しょうわする声が響けば、あとは歓談の流れとなる。

 

「配慮が足りませんでしたな」

 と改めて詫びを入れてくる太郎さん。


「いや、拙者も……」とバツの悪そうな七郎さん。


 ポールさんが酒器を寄せてお酌を勧めると

「クロウ殿、七郎殿、先走って波動の力を見せたのは私です。私からもお詫びを。ですが――」

 となにやら不穏な予感。


「互いに実力を示さねば、仲間と思えぬ者もおりましょう。明日、手合わせしてもらえませんかな?」

 

 おふ――入社試験ですか?


 それを聞いたクロウさん、

「面白い! やろうっ、やろうぞ、なぁ七郎」

 とノリノリで応えてる。


 そんな流れで、明日の早朝この商社の裏にある空の倉庫を借りて試合をする事となった。

 なんなの? この展開。


――――その日の夜の話。


 手合わせかぁ……。

 商社の一角に準備された客室で、床に入っても寝付けないでいる。

 

 手合わせって名の試験だよね? 実力試験的な。クロウさんなら良いけど、オレ主体になったらどうしよ?

 この主体ってのが、今のところイマイチ曖昧あいまいなんだよね。


 と、思っていたら「蔵人くろうどとやら」と、クロウさんが呼びかけてくる。

 憑依してるのに気づいた?!


「気づいてたの?」

「主は何者なのだ? 主の記憶はとてもこの世のものとは思えぬ」


 ……答えて良いのか?


「まあ、面白いがの――主の記憶で明日はいろいろ試させてもらおう」

 そう言って眠りについた。

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