第十三話 作戦

「これより策をお話しします」


 とポールさんが地図を広げた。

 王都“エテルネル”の竜宮城が、遠くに見える商店の二階に第二の根城はあった。


 表向きは地方から集めた特産品を、小売店へ卸す商社。その実態は“乙姫派”の人たちが、密かに会合で使っているらしい。

 

 あ、だから行商人の変装姿だったのね。


「集めた情報によりますと、乙姫は宮殿に幽閉されているようです。

 シズ姫は内廷のいずれかに。その日によって場所を変えています」


 一口に竜宮城と言っても、政務や外国使節の謁見えっけん、国家的な儀式などを行う外朝がいちょう部分と、行政の役人が詰める内廷ないてい、王族が私的な生活をする宮殿に別れている。


 そのうちの宮殿に乙姫、行政区画の内廷に“シズ姫”がいる。


 それを聞いた七郎(弁慶)さん。

「宮殿に忍び込むなぞできるのか? 発覚バレれば即座に包囲される。救出は難しいのお」

 と顎の無精髭を撫ぜながら難しい顔だ。


 すかさずポールさん

「“ハナミズキの節句”の“フェリーチェの儀”を狙います」

 と続ける。


 はて……?


 と言った顔のオレたちに、出来る秘書っぽくなっているリオさんが教えてくれた。


 “フェリーチェの儀”とは、日本で端午の節句のような物で。

 春の訪れを祝い、豊作と子どもたちの健やかな成長を神と先祖に祈願するお祭りらしい。

 

 昼は神々への祈りを捧げささやかな祝宴を催し、夜になると小ぶりの熱気球のようなランタンに神々と、先祖へ感謝の文をくくりつけて飛ばす。

 

 そのランタンを飛ばす前に、女王乙姫と後継のシズ姫が民衆の前に姿を現し国の平穏と、民衆の健やかな生活を祈願するんだそうだ。


 女王自らもランタンを飛ばすのに合わせて祝砲が放たれ、それぞれの世帯が一斉にランタンを飛ばす。

 ちなみに翌日の落下したランタンの清掃も国民行事の一環となっているんだって。


「――して、それはいつ?」

 とクロウ(義経)さんがワクワクしている。


「ひと月後の“ちごの月”にて。それまでにクロウ殿と七郎(弁慶)殿には“波動開眼”をしてもらいます」


 ??……。


“波動開眼”とな……?


「波動は強弱はあれ、誰でも備わっているもの。それを使えるように訓練するのですよ」


 ちなみに“児の月”とは五月。

 これから若葉がグングン成長するのにちなんで、子どもたちの月ってコトらしい。


 説明を引き継いだポールさんが

「常世の国から来た人は“波動”がお強い。こちらの人間の数倍と聞き及んでおります。ゆえに――」

 期待を込めた熱い視線を送ってくる。


 クロウ(義経)さん、

「尋常ではない気配とお見受けしていたが、太郎殿はその達人なのかな?」

 チラリと太郎さんを見る。


「ええ。私もこちらで三年修行いたしました。

 ですが、私なぞ及びもつかぬほど、お二人は強くなるでしょう」

 と微笑む。


「なにせ“波動”は“思い”と“念じる”ことで強弱が決まります」

 と、オレたちを見つめ手のひらに念を集中させ始める。


「その使い方は武技と同じ――とすれば、幼少より武技を極め、“平家打倒”を念じ続けているお二人は、思念がよく練り込まれている」


 ゆえに――と手のひらに目を移すと、バチバチと帯電する黒い球体が浮かび上がった。

 それをスィ――と、中空へ浮かす。


 窓や明かり取りが締め切られているのを確認すると、拳を握り込んだ。


 黒い塊がパンッと破裂する。

 閃光で目の前が真っ白になり、耳がキィィィィンとなって、思わずその場へしゃがみ込んだ。


「これくらい造作もないくらいです」


 と穏やかに笑った。


 この場合、『Yes my マスター』と言わなければならないのかな?

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