第十二話 物見遊山

「お待たせを」

 

 色っぽいお姉さん(リタ・ハリングさん)が着替えてくると、できる中華の美人秘書みたいになっていた。もともとしっとりとした雰囲気だから、なんか大人の女優って感じ?


 袖幅の広いワンピースに、丈の長いスカート。

 シマチョゴリもどきと言えば素直なのかな? 人の作る物って似てくるのかも知れない。

 

 全体的に青っぽい色調に黒い花びらが散りばめられていて、知的だけど気品と色気もあるみたいな。

 それに茶色いローブをかぶると途端に目立たなくなる。


「女は化けるもんだの。だがそれも雰囲気が変わって良い」

 

 とご機嫌なのはクロウ(義経)さんと、そう、ですな……と戸惑い気味な太郎さん。

 そして見るからに、また色香に走ってる、とジト目の七郎(弁慶)さん。

 そのバラバラっぷりに戸惑うポールさんとか。


 一方オレたちの格好はどこから見ても旅の行商人一団。

 頭巾ずきんをかぶって、前あわせのYシャツをズボンの中へ押し込み、スソを脚半きゃはんでしばったソマツな衣装だ。

 背には商品を入れるデカいバッグを背負い、その中に着物や大刀を入れてある。

 腰には火打石ひうちいしや小物が入ったポシェットに、護身用の小太刀こだち

 

「……では参りましょう」

 ポールさんの掛け声に、そんな一団が“アの国”の中心部まで移動を始めた。


――――――


“アの国”の首都“エテルネル”。

 上から見ると、小高い丘の上にある竜宮城を中心に、碁盤の目のように道でくぎられた街だ。

 

 その郊外にあるシリル河から水路を引き込み、飲料水の上水を取ったり、堀を築いて物流の拠点となっている。


 トラックが余裕ですれ違うことができそうな広い道幅に行きかう荷車、オレたちみたいな行商人や忙しげに行き交う人であふれていた。


「なかなか、にぎわっておるのぉ」

 クロウ(義経)さんは、珍しげにキョロキョロあたりを見回しながら、楽しげに歩いている。

 道沿いにはレンガ造りの建物が立ち並び、商店が軒を連ねていた。


「これほどの“アの国”が属国化させられているとは信じられませんな」

 七郎がぼんやりとつぶやく。

「京の都よりもにぎわっておるからの」

 とクロウ(義経)さん。


「“ラの国”はさらに強大です。風のように海を走る船、火を吹く車、空飛ぶ鋼のトンボなど我らの想像を絶する兵器をようし、まともに戦えばまず敗れます」

 ポールさんが小声で教えてくれた。


「ですが我らには、奴らがおよびもつかない波動があります。詳しくは次の根城で――」

 と話しを打ち切り、竜宮城までの道を急ぐ。


「警戒――」


 しばらくすると、リタさんから短く警告が飛んだ。

「顔を上げず、しばらく足元を見て歩いて」


 さっとあたりをうかがうと、紺色の詰襟つめえりの上着を着た一団。

 革製の肩当て、胸当て、さらにすねあてを装備し腰にはサーベルのような軍刀をぶら下げている。


 行きすぎた頃合いでポールさんが

「今日はここまでとします。着いてきてください」と小声で伝えてくる。

 どうやら次の根城へ向かうようだ。


――――――


 根城へ着くなりクロウさんが、

「さっきのがワルレー軍団かの?」と何か感じるところがあったみたいで。


「そうです。我らに勘づいて、巡回を増やしたのかも知れない」

 ポールさんが装備を解きながら、忌々いまいましげに答えた。


「まったく体軸がブレてませんでしたな」

 と七郎(弁慶)さん。

 こちらは僧兵目線で、戦闘力を感じたみたいだ。


 アスリートが体幹を鍛えるのは、体に軸を作り、手足を振り回しても制御できるようにするためだ。

 体軸がブレない修練を積んでいる。

 つまり――強い。


「これより策をお話しします」

 と、地図を広げた。

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