第十一話 波動と色っぽいお姉さんと

「振動を増幅し、波に変えて物理に干渉する――これが波動はどうです」

 とにっこり笑った。


 波動スゲェ――とオレたちが尊敬の眼差しで見ていると、

「ちょっと訓練すれば誰でも使えるものです」

 と少し照れている。


「いやいや本当に凄いよポールさん。関所のアレも波動はどうなんだろう?」

 

 クロウ(義経)さんがかなり前のめりだ。

「あれは良い。どんな女子おなごの寝所にも潜んで行ける」

 犯罪目的かよ。


「……それに斥候せっこうには打ってつけじゃ。タコ坊主(清盛)の寝首をかくのにものぉ」

 

 と小さく呟いた。

 一瞬漏れ出したクロウ(義経)さんの殺気に、静かになる。


 あっははっとポールさんが、笑い出した。

「関所の方は事前に仕込みをしました。

 仲間が“惑わしの香”を四方からき、“思考”を鈍らせた。

 我らは“解毒の葉”をんで香の惑わしから免れましたが。

 “思考”もまた『脳の中の微弱な振動』――ゆえに鈍らせたその振動を波動で干渉し認識を書き換えたのです」

 と種明かしをする。


 だから簡単には女の寝所に入れませんぞ? と釘を刺すと、

「なんだ、なかなか不便ではないか」

 と肩をすくめた。

 

 クスクスとそれを見て色っぽいお姉さんが笑う。


 こうやってモテるんだろうな――いいのだ。

 オレは食欲に走ってやる。

 パンにスープを浸すと、玉ねぎと塩胡椒しおこしょうの味。コンソメでも入っているのだろうか? コクがある。

 ナイフとフォークで肉を切り分け、口の中に放り込む。

 

「か、辛ぁ――」


 これは唐辛子のスープに漬け込んだヤツだ。

 慌ててワインで流し込んだ。

 七郎(弁慶)さんがあまりにうまそうにバクバク平らげるものだから、あの赤いスープを忘れてた。


「拙者はちょうど良い塩梅あんばいと思いますがの? それどころかクセになりそうな後を引く辛さと言うか――」

 食レポは良いから。


 ヒィヒィ言いながら、もう一杯とワインをもらうと不思議と辛さが落ち着いてきた。それどころか、ワインが肉の脂を流してふんわりと甘い香りが口腔くちのなかを満たしていく。


「辛ウマ……?」


 不思議な顔をしてるオレを見てポールさんが笑った。

「“アの国”の香辛料はいささか辛い。初めて食べた人は大抵、ビックリなさる」

 と、太郎さんを見る。


「左様。最初に来たときはビックリしたもんです」

 と、顔を赤らめた。


 ワインの度数は低く、スッキリとしてたから肉を食べては流し込み、パンで舌をリセットすると玉ねぎスープで整える。あっという間に皿が空になった。


「ご馳走になり申した」

 とクロウ(義経)さんが丁寧に頭を下げると、七郎(弁慶)も居住まいを正して礼をする。


「お粗末さまでした」

 と色っぽいお姉さんが軽く腰をかがめた。


「さて、乙姫とシズ姫の閉じ込められている竜宮城を見ておきたい。その周辺あたりの地理ものぉ」

 と、体にバネが入っているような勢いで、立ち上がった。

「敵を知らねば戦はできませんからな」

 と七郎(弁慶)さんも立ち上がる。


「着替えて次の根城ねじろへ参りましょう、関所の次第を見た者がいるかも知れません」

 と衣装の置いてある小部屋へ案内すると言う。


「うむっ、ときに先ほど給仕をしてくれた女性は名をなんと申される?」

 へ? と顔をするポールさん。


「いやなに、次の根城へ行くならば礼の一つも名指しで言わねば情がなかろう?」

 十五にしては言うことが年寄り草っ。

 と言うより、ゼッタイ名前を聞いときたいだけだろ?


「リタ。リタ・ハリングでございます」

 衣装を手渡すのはさっきのお姉さん。歳のころは二十二、三?


「もっとも、次の根城にもご同行いたしますが」

 とうっすらと浮かべた微笑みに、クロウ(義経)さんがご機嫌になったのをオレは知ってる。

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