第十話 波動のこと

「こちらの世界ばかりか常世とこよの世界も手に入れるためです」

 とポールさんは断じた。


 七郎さんは、世界とな……? と首をかしげながら、

「“常世の世界”とはどこの国ですかな?」

 

「タロウ殿たちの住まう“日の本のある世界”ですよ」


 なん……だと?! 急にこちら側も関係してきた。


 七郎(弁慶)さんの顔色がかわる。

「そうなれば、源氏の世は来ぬではないか」

 と頭を抱えた。


「クロウ殿っ、これはウカウカしてられませんぞ?!」

 とすごい顔圧で迫ってくる。

 ウザイ……そして怖い。

 

 ぐるりと首をひねると、タロウさんに

「いかがされるおつもりでござる?!」

 とにじり寄っていく。


「ま、まぁ落ち着いて……。シズさえ救出できれば、“外魂げこんの玉”は出来ず“大妖たいよう ハデス”の復活もありませんから」

 なるほど、それもそうですなと七郎(弁慶)はうなずき、「さればいかがして救出を?」

 などとせっかちだ。


 そんな七郎(弁慶)さんをゲンコで、ど突いたクロウさん。

「慌てても仕方あるまいよ。まずは腹が減った、何か食いもんはあるかの?」

 となかなか大物だ。


 ポールさんが、これは申し訳ない――と二回手を叩いた。

「お待ちしておりましたぁ」

 と甘ったるい声が聞こえて、出迎えに現れた色っぽいお姉さんが給仕を始める。

 

 ピッチリ目のチャイナ服っぽい?

 で、それの深めのスリットから、チラリチラリと白い肌が見えるから、なかなか目に毒だ。

 おまけに動くたびに良い匂いがする。

 

 クロウ(義経)さん

楽めそうだの」と早速鼻の下を伸ばしている。

 それに意味深な目線で答えるお姉さんもお姉さんなんだけど。

 く、これだから陽キャってヤツは。


 さて、腹も減ったし。

 気を取り直して、運ばれてきたメニューを見ると、透明な茶色い透明なスープにパンがそえてある。

 メインは拳大の肉の塊が、石で出来た厚手のドンブリの赤いスープの中に鎮座ちんざしている。


 冷えてんですけど。

 季節はまだ四月。寒風にさらされて体も冷えている。

 あったかいのが良かったなぁ――だがスラムの隠れ家で豪勢な料理を煮炊きしているのは不自然だ。

 匂いで怪しまれてしまうし。

 

 仕方ないか……と、諦めてパンに手を伸ばしたとき、

「ちょっと待って」と色っぽいお姉さん。


 手をかざすと、ビィィィィィンと食器が細かく振動を始めた。見る見る湯気がたちのぼってきた。


「これは面妖めんような……」

 七郎(弁慶)も固まっている。


波動はどうよ」

 にっこり笑うお姉さんに、波動はどう? とクロウ(義経)さんが聞き返した。

 そう言えば関所でも“波動はどう”とか言ってなかったっけ?


「食べながら説明しよう」

 ポールさんがパンをちぎって口に入れると、見よう見まねで食べ始めた。


「何から説明すれば良いか……そうだ、クロウ殿。万物は何からできていると思う?」

 哲学か? それとも科学?


 とっさに「原子ですか?」と、現代知識のNGワードで答えてしまった。

 無理やろ? 中世の人たちに原子とか!?


 慌てて「な、なんなんでしょうね!?」と七郎(弁慶)さんに話を振った。

 無視されているけど(焦り)


「原子……? 面白い考えですね。万物は見えない粒の塊です。そしてそれは小さく振動している」

 そしてそれを――と手にした陶器に注がれたワインを飲み干すと

「大きく共鳴させることで熱を帯び、さらには――」

 と手にした陶器に集中する。


 と、陶器はパンッと弾けてしまった。

「このように砕けてしまう」とナプキンで破片を集めて、お姉さんに渡した。

 

「振動を増幅し、波に変えて物理に干渉する――これが波動はどうです」

 とにっこり笑った。


ここまでご覧頂きありがとうございます。もし面白いと思っていただけたらレビューにお星さまをください!

 泣いて喜びます🥲

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