第八話 潜入

「こちらです」と荒屋あばらやに案内されると、

「こちらへお着替えを」と衣装を手渡された。


 コッチの平服だろうか?

 貫頭衣(ワンピース)みたいな服と、ダブダブのズボン。髪型もこちらの人たちに合わせて、後ろで総髪そうはつに結い上げる。

 さやかき(頭のてっぺんを剃り上げた部分)はローブみたいな外套がいとうを被って誤魔化ごまかした。


「おお、隠密っぽいの」とクロウ(義経)さん。

 無邪気なもんだ。

 七郎(弁慶)さんも珍しげに面裏をひっくり返して見ていたが、さっさと着替え始めた。

 

 準備が整うと街道らしき道にもどり、それが途中から石畳いしだたみに変わるころには似たような格好かっこうをした行商人や、商隊らしき一団が見えてきた。


「石畳とは豪勢ごうせいな国のようでござるな」

 七郎(弁慶)がふむふむと感心している。

 

 うんうん。だよね。


 日本でも街道が舗装されたのは、東京に初めて自動車が登場した明治後期だった――と、車好きの知人が言ってた気がする。


 話が横道にれた…………で、たどり着いた道の先には、関所がある。

 当然のごとく、警備する強面こわおもての兵隊や検査に並ぶ異世界の商人らしき集団が並んでるわけで。


 口に葉っぱのようなものを服んで

「しばらくこれをんでいてください」

 と、自身もニチャニチャみはじめた。

 それにならってんでみると、スッとする爽やかな香りがする。

 ガム……かな?


「どうするの?」

 心細くなったオレがイケ親父に変わった太郎さんに聞けば、

「なに、心配ございません」とそっけない。


 乙姫って幽閉ゆうへいされてるんじゃないの?

 バレれば、当然拘束こうそくされるよね?


 いよいよオレらの番になり、不審げな目で見る役人にポールが証書(パスポート?)を見せる。

 関税らしき小袋を握らせると「お前たちは何も見なかった」と低くつぶいた。


「なにを……」と言いかけた途端、うつろな目になる。

「そう、お前たちは何も見なかった」

 とポールさん。


「「「オレたちは何も見なかった」」」

 あたりを見回すと警備兵の皆さんまで?!

 それどころか順番待ちの人たち全員がうなずいている。


「通れ」

 と告げられると、足早に通り過ぎた。

 な、何があった??


◇◇


「コレはもう良いでしょう」と、口に含んだ葉っぱを吐き出した。

 同じくぺっと吐き出したオレは

「ポールさん、さっきの……なんなんですか?」

 小声で聞いてみた。


「“波動はどう”です。認識を変えました――何も見なかった、とね」

 同じく小声で教えてくれる。


「“波動はどう”???」

 なぞワードに固まっていると、「詳しくは我らが根城ねじろにて」とどんどん歩いて行ってしまう。

 

 誰か説明を求む――。


 浦島太郎さんを見ても、ニヤニヤ笑ってるばかりだ。

 オレと七郎(弁慶)は互いに顔を見合わせて肩をすくめた。


 関所を抜けると街道かられて、バラックの立ち並ぶスラムへ入っていく。

 無許力な目線にカビ臭い匂い。


「なんだか、おい……?」

 大丈夫かよ――不安が込み上げてくる。

 ギョロリとあたりを見回す七郎(弁慶)さんが

「ここは腹をくくりましょう」と、油断なく腰を落とした。


 そしてたどり着いた荒屋あばらやに、たむろするがらの悪そうな連中。

 

 いよいよか?

 と緊張していると、中からその荒屋あばらやに不釣り合いな女が出てきた。


「ご馳走は?」

「後に取っておけ」

 そうポールが返すと、ニヤリと笑って中へ通す。


 なんだかわからないまま、オレたち一行は中へ誘われた。


「ふむっ、ワクワクするのぉ」

 とつぶいたクロウさん、アンタは間違いなく大物だよ。

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