第七話 浦島変身?!

 グニャリと視界がゆがみ、眩暈めまいが治った時、目の前には朝焼けの空が広がっていた。

 背から波の音が聞こえ、目の前には松林が広がっていた。


「なんと……? 寺はどこへ消えたのだ?」

 七郎(弁慶)の戸惑とまどった声が聞こえる。


 オレは現代のweb小説で、散々読み込んだ転移とわかったから、キョロキョロとあたりを見回し、スゥ――と深呼吸してみる。磯の香りのする清々しい空気だ。


「“アの国”でございます」

 渋い声に二度見した。


「へ……? 誰?」


「? 浦島にございますが?」


 七十過ぎのご老人だった浦島太郎さんが、どう見ても三十チョイのイケ親父になっている。


「太郎さん、その姿は?」

 七郎の驚きを含んだ声に、太郎さんは手のひらを裏返したり、あちこち触って気がついたようだ。


「若返っている……」

 呆然ぼうぜんとオレたちを見返す太郎さん。

 

 総髪を後ろでゆわえてあるのは変わらないが、真っ白だった髪が黒々と変わっている。

 少し腰を突き出す老人然としたたたずまいから、スラリとした長身へ。

 百七十五センチはあるかな?

 

「さてはて面妖めんような……」

 と戸惑うイケボに、面長でキリリとした細長い眉に整った目鼻立ち。

 うっすらとたくわえる口髭がまさにイケ親父。

 

 こりゃ、乙姫が浮気を疑うわけだ……。


「妖術かの? ずいぶん、面白い」

 クロウ(義経)さんたら、もう受け入れている。


「これも大日如来様の奇跡?!」

 七郎(弁慶)がまた拝んでいる。

 が、次の瞬間薙刀なぎなたの鞘を引き抜いて、ブンッと一振りすると

「何ヤツ?! 出てまいれっ」

 と大音声だいおんじょうを張り上げた。


 何事?! と緊張するオレは、クロウ(義経)さんが知らぬうちに三十センチほどさやを引き出し、鯉口こいくちを切っていたのに更に驚いた。


しずまられよっ、怪しい者ではない」

 と松林の間から、萌葱色もえぎいろのチャイナ服のような軍服を着た一団が現れた。


「タロウ・ウラシマ様御一行ですな? 近衛隊長のポール・メリカルにございます」

 ゆっくりと片膝をつき、見上げる青い瞳に七郎(弁慶)が「ほほぅ?」と進み出る。


 ひざまずいているから身長はわからないが、ガッチリとした肩幅に短く刈り込んだ茶色い髪。

 白人っぽい白い肌に、キリリとした眉の下からは意志の強そうな瞳がこちらを見ている。

 

 二十五、六才? うっすらと無精髭ぶしょうひげを浮かべていても、気品を感じるのは、そういう教育を受けて育った証拠だ。おそらく、女王乙姫の近衛隊長なんだろう。


「一体、誰の近衛殿なるか?」

 所属を明らかにせよ、と言いたいのか?


 オレをかばうように進み出ると、ピタリと長なたの穂先を彼の前に収めた。


「むろん、オトワニ・ア・エアシャルルマーニ様…女王乙姫様です」

 少し視線を落としながら言うのは、彼女への忠誠の現れか。


 自然、それが伝わったのか七郎(弁慶)は放った鞘を拾うと、その穂先を収めた。


 一段落したと見て、タロウさんは近衛隊長と名乗るポールに近づくと両手をとって立たせる。

「ポール殿、お出迎えご苦労様でございます」

 

 染み入るような笑顔で白い歯を見せて微笑ほほえむ彼の顔色からすると知ってる人らしい。


「左様、こちらは助けっ人のクロウ殿、七郎殿にございます。(出自がバレないように仮名で呼んでくれたらしい)根城ねじろへ案内あれ」

 と優しく肩に手を添える。


 ポール近衛隊長は、軽くあごを引くと「我らが先導しますゆえに……」と短く告げると、こちらに背を向け歩き出した。

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