第五話 売られたクロウ

「お願いがございます」

 

 そう切り出した太郎は、緊張した面持ちで懐から巻物を取り出した。


大妖たいよう ハデスとは」

 と巻物に描かれているハデスの姿を見せてくれる。

 

いにしえ大妖たいようにて魂を喰らい影の軍勢を操り、光を飲み込みます。

 討伐は不能、よって“アの国”の始祖しそが秘術をもって封じた、と古文書に記される伝説のあやかしでございます」


 そこには角を生やし、口から火を吹く巨人が描かれており、八本の腕が兵士らしき男たちをつかみあげていた。

 顔の割には不釣り合いな小さい目、体に比べて明らかに大きすぎる腕。

 ファンタジーに出てくるラスボスっぽい。


「で?」

 

「それを復活させようとしている者がワルレー・ラブラトフございます。

 かの者は竜宮城のある“アの国”にて軍卿を勤めておりましたが「ちょ、ちょっと待って」……」

 オレが慌てて制した。


「まさかその化け物を復活させようとしているヤバイやつを、倒してくれなんて言うつもりなんじゃないよね?」


「……いえ、彼のもとから我が娘シズを救い出していただければと……」

 浦島太郎さん、いかにも困った顔をしております。


「アレには父親らしいことは、何一つできませなんだ。せめて、せめての罪滅ぼしに救出できますまいか? そのお力をお貸し頂けまいか?」

 ガバと床に額を押し付けた。


 でたっ! THE DOGEZAドゲザ

 これをやられると大抵のジャパニーズは断れない。まして、離れ離れになった親子の浪花節……だが、断る!

 

「無理――ぜぇったいに無理。だいたい、なんで縁もゆかりもない貴公あなたの助けをしなくちゃならないの?」

 こちらも命がかかってるんだ。

 

 なるほど、ごもっとも――と太郎さんは懐から懐紙を取り出した。

 これは証文しょうもんだ。


「おそらくこれがその写しかも知れませんな」

 と七郎くん(弁慶)が同じくらいの証文しょうもんを取り出す。

 そこには特殊な折り方で繋ぎ合わせるとピタリと割印が収まった。


『――にて云々うんぬん。金六十貫借り受け申す 一条長成いちじょうながなり』とある。

 一条 長成いちじょう ながなりって義経くんの義父パパだよね。


 えーと一文の一千倍が一貫でしょ? 一文が確か百円だったから、現代いまで言うところの……六百万円?

 その借用書とオレが関係ある?


「義理の息子が東北に行く旅費としたい――と」

 ついては本人がそちらへ尋ねてくるので、好きなように使ってね♡ ――だと?!


「そもそも源氏のお力をお借りしたく、手前の実家、日下部くさかべ家へ依頼したところ、一条さまを紹介頂き……」


 んで義父おやじが好きなように使ってね――♡

 回り回ってオレ?

 

 ブルブルと震える手で花押かおう(現代のサイン)を確かめてみる。

 間違いなく一条家の花押かおうだ――オレを売りやがった!


 ちなみに七郎(弁慶)の預かったのは五十貫だ。十貫(百万円)チョッパねてやがる……(泣き)


仔細しさいはわかった。だが、こちらも命がかかっておる。

 報酬が六十貫とは安すすぎまいか? さて、太郎殿――」

 いくらで我が命を買う? と言葉が転がり出てくる。


 義経さんバカなの? ね? バカなの?


 言った鼻から慌てるオレに、太郎さん。

「あい分かりました。とはいえ、手前も銭を持ち合わせてはおりませぬ」

 ついては――と、かたわらにあるもう一つの風呂敷を出してくる。


 中には赤い珊瑚が入っていた。

「紅珊瑚にございます。一つ十貫(百万円)の値はつくかと。ご同行頂けるなら、これを一つ――見事、救出の暁には三百。乙姫がそう申しております。

 誓詞せいしを書いてもよろしゅうございますが?」


 しめて三百貫?! 現代で三千万?!


「「乗った」」

 七郎(弁慶》とクロウ(義経)の声がお堂に響いた。



次は17:00に投稿します。宜しくお願いします🙇‍♀️🙇‍♀️

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