第∞話
三月の十三日。私と竹山は夜の海岸沿いを歩いていた。
「いやぁ、もうすぐ卒業しちゃいますね。みんな」
「そうですね。しっかりと高校で将来の日本を担うために頑張ってほしいです。愛活もしっかりと生かしてやってほしいですね」
「言うことがめちゃめちゃ新藤先生らしい」
クククッ、と竹山は苦笑いをする。
「いやぁ、そろそろ卒業したいと思うんですよ、僕も」
「何をですか?」
「独身男性を」
チカチカと輝く工場の光に照らされ、竹山はひざまずいた。
さらに、私の腰に手を当て、体を向かい合わせる。
「……そろそろ、人生のパートナーになりたいと思ってました」
「え……っ」
急に心臓が高鳴り始めた。これまでに経験したことのない弾みと量で。
「ずっとずっと、あなたのクールでも真っすぐで、熱い心を持ったところに惹かれていました。食事の時も風呂に入っているときもベッドの中にいるときも、あなたの時折見せる気さくな笑顔が脳裏から離れませんでした」
竹山の顔は工場の光と月の光に照らされ、一層輝いて見える。
「え、ええ……」
どこかで聞いたことのあるセリフだ。これは気のせいだろうか。
「これまであなたは片思いの相手であり、あこがれの人でしたがその関係は今日で終わりにしたい」
竹山はスーツのズボンのポケットに手を突っ込み、装飾された箱を取り出す。
カパリ
「……ウソ」
箱から出てきたのは、ゴージャスな光を放つルビーがセットされた指輪だ。少し紫色も入っている。
「あなたの誕生日、七月二十七日のルビーとスピネルです。どうか、これを受け取ってください。一生、あなたのことを幸せにして見みせます!」
「……ありがとうございます。私で良いのなら、どうかコチラもお願いします……!」
私はひざまずく竹山の両手から、ルビーとスピネルの指輪を手に取り、左手の薬指にそっとはめた。
「ありがとうございます……ちょっと、キスしていいですか?」
「は、はい……!」
そっと竹山は私の顔をこちらに寄せて来て、「I LOVE YOU」と言って頬に口づけをした。
「前までのは、全部予行演習だったんですよ」
「……やられました、先生」
「ハハハ」
私たちは手をつなぎ、水できらめく海岸沿いをそっと歩いて行った。
(happy end)
プロポーズの予行演習 DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555
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