最終話 俺たちモブ、最後を迎える
そして、そんな状況が一向に改善されなかった結果――
運命の最終回。俺たちモブが最も恐れていた事態は発生してしまった。
つまり、全員、何事もなく、無傷で生存。
仲間を守る為に決死の特攻をかけることも。
そんな仲間を想って密かに涙することも。
大量破壊兵器の爆風に巻き込まれて四肢を吹き飛ばされるなんてことも一切なく――
最終話、全員笑顔で並んでピースサインをして終了。
俺たち、モブにも関わらず結構最前線まで出たはずなんだけどな。熱線ジュでやられるならここしかないと、みんな一縷の望みをかけていたのに。
主人公とヒロイン?
あぁ、めでたくラストシーンで仲良く抱き合ってたさ。最早どうでもいいことだけど。
紅一点ちゃんは復活したのかって? うん。
最終話のほんの数秒だけ、主人公の回想シーンでな! 畜生が!!
全てが終わった後の、ファンの反応がどうだったかというと――
ただただ、貴重な尺を日常生活シーンで喰らいまくったモブとして、俺たちの名は悪い意味で話題になった。
「A太×ね」「B男爆×しろ」「C子は××された上で××されて×ねば良かった」
こんなコメントをSNSで何度見たことか。
だが、俺たちモブが話題になったと言っても。
女賢者を筆頭に主人公やヒロインなど集中的にヘイトを買いまくったキャラたちと比べたら、本当にごくわずかなもの。
作品を駄目にした戦犯としてすら、俺たちは大して話題にならずに終わったというわけだ。
主人公もヒロインも、そして作品自体も、恐ろしい速度で人気が落ちていき。
最終回の後は怒りの「元」ファンの呟きばかりがSNSに溢れ、好意的な書き込みはろくに見られることなく。
それすらしなかった視聴者も、一気に作品への興味を失ったのか――
何も言わず、光の速さで、消えていった。
放送終了一か月後にはもう、作品が一番盛り上がった時と比べ、SNSへの書き込みは10分の1ぐらいに落ちており。
関連グッズの売り上げもガタ落ち。ただ、不遇を極めた紅一点ちゃんとか、雑な死に方をさせられた剣士や四天王のグッズだけは何故か売れるという始末。
どうして俺たちの世界が、こんなことになってしまったのか。
原因は制作側の混乱にあったらしい。
脚本を練りすぎて進行が遅れ気味だったとか、声優事務所との何やかんやとか、スポンサーの横やりとか、果てはLGBTだのポリコレだのPTAだの様々な方面からの口出しとか……
ともかく色々あって、本来制作者が目指していた作品の形から大きく歪んでしまったのは確かだった。
俺たちは、最悪の作品に生まれてしまった。
俺もB男もC子も、モブたちは皆絶望にくれ、肩を抱き合って泣き喚いたものだ。
***
しかし、その数年後。
アニメではなく漫画の方で――つまりアニメのコミカライズ版という形で出た漫画で、俺たちは壮絶な展開を迎えることとなった。
それはまさに、アニメで視聴者が、そして俺たちが望んでいた衝撃の展開でもあり。
C子が望んでいた残虐表現山盛り、死亡者てんこ盛りの作品で――
そして、非常につらい展開は数あれど、熱い作品でもあった。
仲間のメインキャラには勿論、どの四天王にも凄まじくカッコよく熱く、そして泣ける見せ場が用意された。
剣士も自爆死ではなく、ライバルたる四天王の一人と激戦を繰り広げた末、壮烈な相討ち。
女賢者の裏切りも、しっかり伏線を準備して本人の葛藤を描いていた。最後は許されることなく、主人公に謝りながら死んでいった。
あの紅一点ちゃんの死亡も、序盤ではなく中盤の山場。それまでは主人公とヒロインと彼女とで可愛いラブコメが毎回繰り広げられ、その上での死亡という、アニメよりよほど存在感のある死亡となった。
そしてそれはモブの俺たちも同じだった。
主人公との絆を深めるシーンがアニメより印象深く、「一緒にいるだけ」ではなく、ちゃんとメインキャラとの心の交流が描かれていたといえる。
俺たちモブ仲間も、10人中3人が中盤までに戦死。5人が終盤で一気に死亡した。
C子にはアニメの剣士様など比較にならないほどの重厚な特攻シーンが用意され、盛大な花火となり散っていき。
あれほど逃げ腰だったB男は主人公の手ほどきで強力なサポート術を使えるまで成長し、死者多数の中、片腕をもがれながら辛くも生還を果たした。
ちなみに七英傑は、漫画版では存在自体が半分以上抹消され、三英傑になっていた。
残り四人は尺を取るだけの無駄なキャラたちだと判断されたらしい。
しかも俺の好みのメカクレショート娘ちゃんは選ばれし三英傑の一人。仲間の裏切りで四肢寸断され死亡という壮絶なオチだったが、アニメ版よりずいぶんマシ。服ビリ見れたし。
そしてむしろこちらの漫画版の方がSNSで滅茶苦茶に話題となり、作品人気は大復活。
数年後遂に、漫画版をベースにしたリメイクアニメが作られるまでに至った。
ん? 俺、A太がどうしたかって?
俺に関しては――正直、最初のアニメ版とそんなに変わらなかった。
漫画版でも俺の出番は、釣りをして畑耕してカジノでスって、あとはちょっと修行して要所でたまに主人公たちにアドバイスするだけ。勿論最後まで生き残った。
だけど、そんな俺の評判自体は何故か、アニメ版とは雲泥の差だった。残酷すぎる展開ばかりの中、数少ない癒しとして。
アニメ版と漫画版の俺で何が違うかって? そりゃ勿論、俺と似たような『日常系癒しモブ』が他にいなかったという点だろう。
B男は成長し、C子は華々しく散っていった。
他のキャラもド派手に、あるいは呆気なく、あるいは残虐表現ギリギリの拷問を受けて死亡していったし。
メインキャラたちとは比較にならない規模ではあるものの――
「A太君推しです!」と言ってくれて、イラストを描いてくれるファンも増えた。
中でも心に沁みたものは、あるファンの何気ない呟き。
『A太君が大好き。あのボサボサ頭と眼鏡、私の好みドストレートなんです!
生き残ってくれて、ありがとう』――
そんな言葉と一緒に描かれたのは、いつも通り眼鏡をちょっと直しつつ、釣りをしている俺。
壮絶な展開を続ける世界で描かれた俺のそんな姿は、何故か――
これまでないほど、とても輝いて見えた。
俺のようなモブは、死亡以外で輝ける時はないと思っていた。
だが、ただ普通に日常を過ごしているだけで、それが誰かの胸をうつこともあるのだと――
そう自覚した時、自然と涙が溢れ。
曇ることのなかった眼鏡が、ほんの少し曇った。
それは、仲間の誰が死んだ時も、ろくに描かれることのなかった、俺の涙。
生きのびて良かったんだと――
この時俺は、初めて思った。
Fin
モブの俺たちに注目されても困るんだが。 kayako @kayako001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます