第4話 俺たちモブが本当に恐れるもの
ところが、そんな俺たちの希望も虚しく――
主人公が衝撃展開からすぐに立ち直ったばかりか、何故か唐突に女賢者が心変わりし、自分からヒロインと一緒に数日で戻ってくるという、非常に平和な展開が待っていた。
しかも女賢者を、主人公は何ら咎めることなくあっさり許すという。
こんな平板展開、逆に衝撃すぎる。
普通もっとあるだろう! 敵に回った女賢者と捕まったヒロインの、服ビリ上等のガチ殴り合いとか! 女子でも許さず容赦なく殴りに行く主人公とか!! 四天王との熾烈な戦いを通して敵味方を超えた友情をはぐくみ、大きく成長する主人公とか!!
勿論、SNSは女賢者にヘイトが殺到。
さらにそれを簡単に許した主人公やヒロインにまでも批判が集中し、この展開の為に犠牲になった剣士や、出番をすっかり失った四天王のファンからは悲痛な叫びが幾千となく上がった。
あまりの展開の酷さに、狂乱するファンが続出。
作品タイトルや主人公らの名前が、悪い意味でトレンドに載ることの方が多くなってしまう始末。
中盤ぐらいまでは、良い意味でのトレンド入りが多かったんだがなぁ……
一方、そんな超展開が逆に幸いしてか。
俺たちモブの目立ち方はそこまで批判されず、ヘイトを集めることもなかった。
主人公らの名がトレンド入りすることはあっても、俺たちモブがそうなることは全くない。
スタンプを始めグッズやらアニメ誌やらラジオやらで謎の贔屓?をされても、話題に上がることは殆どない。
所詮モブキャラだから、当然といえば当然なんだが――
モブにしては奇妙に出番を与えられ、モブにしては作品外でも目立っている。
そんな俺たちの存在は何故か、良くも悪くもそこまで話題にならなかった。
試しに俺の名前「A太」でSNSを検索してみると、グッズ交換依頼の書き込みが大半だった。
つまり、「剣士君のバッジが欲しいので、A太のバッジと交換してください!」という依頼。
「求:剣士君、譲:A太、B男、C子」などと書かれていることも多い。
そして、そんなグッズ交換状況を見ると――
常に俺のグッズが「譲」の側に。
「求」の側に俺の名があったことは一切ない。
す、すまないみんな! きっと剣士とか四天王とか人気キャラのグッズが欲しかっただろうに、絶対いらないであろう俺のグッズが当たっちまって!!
さらに言うと、俺のグッズを「譲」の側に出しても、交換が全く成立しないというケースも結構ある。
剣士とか四天王とか、人気キャラが求められる場合はなおさら。
俺とB男C子といったモブキャラが10人ぐらいまとめて「譲」の欄にあっても、四天王一人のアクリルスタンドの交換が成立しないなんてこともザラだった。
俺がSNSで話題になるとしたらその程度。
たまに他の話題が出ても、ラジオで出た俺の中の人の件ばかり。
俺自身の話題はほぼ皆無。
モブなんだから当然と言えば当然なのだが――
作品内外で、ヘタするとメインキャラより目立っているわりに、この状況である。
そしてここへきてもう一つ、気になることがあった。
作品についてSNSで話題になる回数自体が、序盤に比べ半分近くまで減っていたのである。
今でもトレンド入り自体は果たしているものの、序盤の勢いと比べると見る影もない。
つまり――
SNSでことさらに騒ぎ立てることがなくとも。
俺たちの世界=この物語から黙って離れる層は、非常に多い。
これが、サイレントマジョリティというヤツか。
このことをB男に話してみると、ヤツにしては興味深い答えが返ってきた。
「そうだと思うよ……
父さんが良く言ってた。文句を言ってくるお客さんこそが大事なんだって。
不満を持ったお客さんは、殆どの場合その不満を口にすることなく、黙って店から離れるだけ。
そういう時に文句を言ってくるお客さんは、店を何とかしたいからこそ言ってくれる、ありがたい存在なんだって……」
B男は元々商人一家の出だから、その言葉には説得力があった。
「同じことが今、僕らの世界にも言えると思う。
そりゃ、あまりに過剰だったり根拠のない叩きは無視するに限るけど」
「そうじゃなく、的確に不満を述べてくれるファンの意見は重視すべきだと――
そういうことだな」
俺たちの扱いにしてもそうだ。
あしざまに罵られたり、ヘイトを買ったりすることはなくとも。
よくよく見ると、俺たちはファンからそれと似たような――否、それ以下の扱いを受けている。
要は、普通に無視されている。
嫌われた方がまだマシと言える扱いかも知れない。
好きの反対は嫌いではなく無関心とは、よく言ったものだ。
さらに呟くB男。
「いつも僕は、死ぬのはイヤだって思ってるし。
死んでほしくないっていうファンの意見はとても嬉しいけど
――このままじゃ僕たち、本当の意味で、死ぬんじゃないかな?」
そう。
SNSだと、俺たちモブはいつも
「目立たないけどいい子たち」「だから殺さないで」とよく言われる。
そこまで尖った性質を与えられず、ヘイトを買うような行動もせず、毒にも薬にもならないキャラになった結果だ。
だが、俺たちはそんな意見をありがたいと思いつつ、そのたびに心のどこかでチクチクしたものを感じていた。
俺たちのようなモブが本当に輝ける瞬間は、盛大に死ぬ時なんだと――
いつもC子はそう言っているが、ある意味それは真実だ。
俺たちモブが、今いるような血で血を洗う殺伐とした世界で最も輝けるとしたら、死ぬ時以外はない。
それ以外の方法で目立とうとすれば物語の尺を無駄に喰らい、メインキャラの出番までも喰らってしまう。
モブが必要以上に物語の前面に出てはいけない理由がこれだ。
だから、俺たちのようなモブが急に目立ち始めると、大抵の視聴者は俺たちモブの死を予測する。
勿論、俺たちも死を覚悟する。
どんな死に方で輝けるのかと――ある意味、期待をこめながら。
主人公たちを庇って盛大に死ぬでも、逆に画面の隅っこで人知れず爆散したとしても構わない。
どちらにせよ、その死ははっきりと視聴者に焼きつけられる。
大したイベントもなく、ヘタに生存しましたヨカッタネ♪で終わるよりはマシだ。
だから俺たちは、「死なないで」とSNSで言われるたび、モヤモヤする。
俺たちが死ななかったら、君たちは作品が終わったらすぐに俺たちのことを忘れるよな?
というか今でも君たちの推しは俺たちじゃなく、四天王のイケメンだよな?
描いてるイラストは四天王同士のBLばっかりだよな?
俺たちモブのイラストなんて描いたことないよな?
なのに、推しでもない俺たちに無責任に「死なないで」と言いながら、いわゆる『本当の死』を押しつけるのか。
誰の記憶にも残らず、誰からもその存在を忘れ去られる、『本当の死』。
これこそが、俺たちモブが最も恐れる『死亡』だ。
だが今の物語は、俺たちモブが死を予測されるほど目立っているにも関わらず、迷走ばかりを続け――
結果、俺たちは最終話近くになっても全員生存している。
10人もいるのに、いや10人もいるせいか、モブ集団として目立ちはしても誰一人ろくにキャラ立ちしないままに。
制作者は俺たちを幸せにしたいが為に生存させているのではなく、死なせ時を見失って扱いに困り、ただ生存させているように思える。
このままでは俺たちモブは全員、『本当の意味で』死亡してしまうだろう。
ヘタすると俺たちどころか、主人公らメインキャラ含めて、作品もろとも。
全員とは言わない。せめてモブの一人でも死ぬことで、少しでも俺たちモブに存在感が生まれないか。
俺たちのモブ仲間の誰かが死ねば、生き残るモブたちにも価値が生まれる。
ならばいっそ、俺自身があの剣士の如く特攻するか。
そんな恐ろしい願いさえ俺は抱いてしまったが
――そんなチャンスすら、一切訪れる気配がなかった。
どれほどのピンチになっても、最強主人公様とヒロイン様が守ってくださるから。
俺たちモブキャラにとって、この事態は本当に由々しきことだ。
不必要に目立った上、死ぬことも出来なかったモブキャラなんて、作品放映中は中途半端にヘイトを買い、終了後はすぐに忘れられる存在にしかならない。
それは歴史上、様々な作品が証明していることだ。
そして――最終回。
俺たちモブが、どんな運命をたどったかというと。
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