旅人の世界線 設定資料集

雲矢 潮

連邦暦1600年頃〜2085年 キビジュ帝国

 「旅人たち」世界線、ノマーディ世界のトゥクテュル系遊牧巨大国家 キビジュ帝国 末期の皇統元紀四二〇年/命暦1900年/イスラーム暦1280年/連邦暦2080年/地球暦前4950年頃。

 クークス帝国主義諸国(イェンツェ=カルマール同盟とエンクラント王国)の植民地獲得が進み、かつての大国(大華世界の大辰帝国、オリエント世界のオステン帝国、イラン王国、南コロンボ世界のタワンティン帝国)を衰退に追いやり始め、その他の沿海小国を吸収し続けていた。


 キビジュ帝国はその形成過程から多文化・多宗教・多部族。

主な部族:

 帝国の前身であるキビジュ王国ウレスの民 キビジュ族

 アズベク族と南ルース族の貴族家が合流した王家の名「キビジュ」が由来で、初代キビジュ家当主が創始した、アズベク族の多神教的・王権神授的な太陽テングリ信仰とルース族の一神教的な正統教会を融合させた、主神を太陽=創造神、キビジュ家をその命を受けた君主とするキビジュ正教を信仰する。


 ヨチ王国の民 アズベク族

 スンナ派イスラームを信仰するが戒律は弱い。ヨチ王国は、大華世界からハザール海北岸まで広がっていた旧帝国(ムンガル帝国)の後継国家の一つである。


 カラ王国の民 ムンガル族

 西藏仏教を信仰する。カラ王国は、同じく旧帝国の後継国家でムンガル高原にあった。


 ヤリャ族(皇室系キタウ族)

 スンナ派イスラームを信仰するが戒律は弱い。かつて大興安山脈の東にあったキタウ帝国からの移住民で、タクラマカン砂漠に多く居住する。


 クークスとの国境地域北部に多く居住するルース族

 抗議キリスト教を信仰。


 西部極北地域に居住する アルキカ族(スィミエ)

 土着の精霊信仰


 極東のキタウ族(貴族系キタウ族)

 儒教を信仰。


 タタル族

 土着の精霊信仰。


 ジューシン族

 儒教を信仰。


 旻州族

 大乗仏教を信仰。


 エイーヌ族

 土着の精霊信仰。


 イヌイット

 土着の精霊信仰。


 特にキビジュ族においては、アズベク族と南ルース族の合流の際、不文律的に強固な「性の非公然性」が確立され、自由婚姻・同性愛許容など他人の性的事項に関しては不介入とする文化ができた。「性の非公然性」はアズベク族やヤリャ族のイスラームの戒律をさらに弱めた。

 ケフィアに首都を置く帝国政府は旧カラ王国王都 カラ に「東公」として皇太子を派遣し、東公都政府を設置、東翼の統治を半委任した。



 1400年頃、ムンガル高原を起源とするムンガル帝国が興る。周辺諸国を併合し、東から大華世界大陸部のほぼ全域、ヒマラヤ山脈北麓、オリエント世界イラン高原、西のトゥクテュル世界の西端カルパティア山脈までを実質的な支配域とした。国家主導の商業活動によって影響圏の経済は活発化した。通貨に利用された銀は、南コロンビア大陸から大西洋のイスラーム交易路を通って流入したものだった。また、この時から、ムンガル世界では西藏シャーング仏教が信仰されるようになった。

 この巨大帝国は、本拠である大都が置かれた大華世界での災害や反乱、分裂した各王家による帝位争いにより弱体化し、緩やかな衰退と分裂に向かった。


 1600年頃にはムンガル帝国の分王国の内2つの系譜が復興した。

 ハザール海北岸のヨチ王国ウレスの主要部族であるアズベク族が東進を開始し、アラル海以南を支配していたティムール帝国を圧迫し始めた。ハザール海西岸地域ではクークス・ズラヴィア系のルース族(東ズラヴィア人を主要民族とする部族)と残留したアズベク族が合流し、両族の貴種を義兄弟の契約により統合したキビジュ家を王家としたキビジュ族が興り、アズベク族を追って東方に拡大し始めた。


 ムンガル高原ではターゲン王国の系譜を継ぐカラ王国のムンガル族が再び強大化し、東西の諸部族を併合した。西方ではキビジュ王国がアズベク族、ルース族、アルキカ族を併合し、カラ王国と対峙した。長年にわたる情報戦と何度かの戦闘の結果、キビジュ王国ウレスはカラ王国を併合し、キビジュ帝国イルと自称した。


 キビジュ帝国国内では、氏族を主体とした自由な経済活動が行われていたが、連邦暦1900年頃、クークス諸国の中央集権化の影響を受けて軍事的な対抗手段を用意すべく強権化した帝国政府により、商業活動も政府の管理下に置かれ、中央集権的な氏族体制が作られた。氏族は商業氏族・遊牧氏族・農耕氏族に分類、固定されて硬化した社会体制となり、商業における法規制も強化された。


 この帝国政府の動きに反して、これまで存在しなかった「裏」と「表」が形成された。氏族の固定化により、氏族体制からはみ出した者が都市郊外に密集するようになり、非合法取引が行われる取引市場(「暗部」)として発達していった。

 また、中央集権的な氏族体制に反抗して、商業氏族を中心に秘密組合 氏族同盟 が結成され、自由な商業活動を目指すようになった。氏族同盟は暗部に基盤を置き、暗部の市場の管理を主に行った。また、諸外国の裏市場とも繋がり、密輸も行った。


 2000年頃、クークス諸国での市民革命によって帝国主義諸国も民主主義化されると、キビジュ帝国領内にも民主主義活動家インテリゲンツが増加し、市民民主協会を結成した。この組織はイェンツェ政府の非公式な支援のもと、庶民への民主主義教育を行っていた。帝国政府はこれに対抗し、一般教育制度を導入した。その過程で通史を作成するため帝室歴史学者を動員したが、恣意的な歴史改変の圧力により、一部が反発・離反した。


 イェンツェ=カルマール同盟で産業革命が起こると、キビジュ帝国も近代化を開始した。従来の帝国軍に変わる近代軍アルムを創設し、領土を横断する東西鉄道を建設した。商業氏族にも航空艦が普及した。また、クークス諸国に社会主義思想が興り、ルース族地域に流入した。

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