第24話 菊②

 「ーっ。」


 扇雪みゆきは傷を回復術式で治す。幸い、御井みい家は水関連の固有式を持つことが多いためか、回復術式とは適正が高い。

 深雪みゆきの方は勿論、固有式の関係で一瞬で足を再生していた。


「キャキャキャ。やっぱり、占星術師はいいな。何回だって切ることができる。」


「浅右衛門さん。流石に怒られますよ。」


「あぁ?私はいいんだよ。あいつであっても私たちの対象には入ってる。」


 浅右衛門は刀を回しながら歩く。そして、少し経つと地面に刀を刺す。


「おいおい、贋作。刃こぼれか?」


 扇雪みゆきは亜空間庫から刀を取り出しながら、不敵な笑みを浮かべる。

 今のところ、扇雪みゆきは刀無しで浅右衛門の攻撃を防いでいた。


「キャキャキャ。お前だけだよ。私の刀を受け止めることができるのは。」


「それはどうも。」


「柳生も質が落ちた。但馬守だったか?あいつは少しくらいまともだが...刀の質も...。」


 浅右衛門は倉橋くらはし小晴こはるより新たな刀を受け取る。


 扇雪みゆきは抜き身の刀を取り出していた。


「キャキャキャ。今回は霜零そうれいじゃ無いんだな。」


「お前に二度目は通じないだろ?は食らってしまう贋作だとしても。」


「...。」


 対峙する二人。


 倉橋くらはし小晴こはるも、御井みい深雪みゆきも二人に手を出すことはない。


 手を出すことは死を意味する。


 刹那、先に動いたのは浅右衛門のほうであった。扇雪みゆきの首を狙った一振り。

 扇雪みゆきは正面から対応する。

 


 両者、を使用することなく、刀の刃がぶつかり合い...



「「「!?」」」


 一人は起きたことに動揺を隠せず

 一人はその刀に驚き

 一人はその事実から導き出されたその“固有式”に驚いた


「お前、その刀は...。」


 浅右衛門の刀は折られ、扇雪みゆきは既に刀を上段に構えていた。


「あばよ、“贋作”。生きてたら覚えれてられるかもな。この刀は影打だ。」


「そうかよ...。」


 振り下ろされる刀。

 だが、扇雪みゆきの想定よりも刀は浅右衛門に入らなかった。


 倉橋くらはし小晴こはる扇雪みゆきの刀が浅右衛門に当たる寸前で一瞬で移動し、後ろに引っ張られたため、浅右衛門は真っ二つを避けられた。


 そして、倉橋くらはし小晴こはるは刀を置き、


「降参です。」


「あぁ?」


「浅右衛門さんを死なすわけにはいかないですからね。いくらとはいえ。」


「つまり、一回目をオレ達に解除させようとした訳か...。」


「はい。つまるところは...。」


「で、誰の指示だ?」


「現一条院家当主一条院いちじょういん菊花きっか。」


「おいおい、呼び捨てにしてもいいのか?」


「私達、倉橋くらはし家は元々上帝家に仕える者ですから、分家などに敬称など不要です。」


「...。」


 上帝家


 有史より以前から日本の占星術世界を取り仕切る一族。しかしながら、平安時代の以降、本家の人間は表舞台から消した。そして、5つのうち3つの分家の持ち回りによって当主代行が務められることに現在はなっている。


一条院いちじょういん

二タ月にたつき

三■■

四ノ宮しのみや

五代儀いよぎ


 これらが5つの分家であり、三■■と五代儀いよぎは姿を消したり、代行の枠から外れたりしている。


 そして、名門の占星術の家であればあるほど、分家に対して敬意を払わないことが多い。


「しかし、一条院か...。」


「えぇ。それに加えて彼女は“六合りくごう”、私の馬鹿娘倉橋久遠と接触しています。」


「...。」

 

 








 

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黄昏の扇 モきゅ太郎 @mokyun

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