第4話 飛んで弾丸千切れる感情その手に委ねるバラバラのカラダ

 人は死ぬ。

 デンキは死なない。死ねない。

 鋼の心がそれを許さない。

 デンキは一生罪を背負って、嘆いて、泣いて、俯いて、引き裂かれて、歩き続けるしかないのだ。それ相応の罪をデンキは犯した。侵した。

 否。人間と呼称するのは相応しくない。サイボーグが正しい。

 サイボーグは死なない。

 夢も見ない。恋もしない。

 ただ、人を殺すためにしか生きられない、無機物だ。

 しかしそんな彼でも、心の拠り所にする人間は存在する。



 照りつける太陽の下、少女リンと少年デンキは道を進んでいた。

 共和国のアサルトライフルを担ぐ少女リンは、悪路を進みながらはまじまじとデンキを見つめる。

「……なんですか?」

 視線に耐えきれずデンキは聴いた。

「デンキ君寒くない? 上半身裸で」

「……寒さはもとよりほとんどの神経は自分で調整できます。痛覚とか空腹は、大切なのでシャットダウンしたことはありません。暑い寒いとかなら別ですけど」

「へー便利」

「実は私超能力者なんだ」

 にししと微笑むリンにデンキは疑いの眼差しを向けた。

「あーはいはい。そうですかすごいですねー」

「ほんとだよ!」

「そりゃすごいですねー」

「あー信じてないなもうデンキくんには能力見せてヤンないもんねーだ」

 リンは露骨なデンキに憤慨して、ぷりぷりしながら闇市に入った。

 デンキは自分の目立つ鋼の心臓を隠すためにそこら辺の汚い布を頭から被った。

 デンキはリンを見失わないよう四苦八苦しながら人をかき分けて進む。

 行き交う人々の諦めに満ちた呼吸に混じる焼けた食べ物の匂いと、血のようなつんとする鉄臭い市場にデンキは早くも疲弊しそうになる。

 何だかいつもより体が重い気がする。

はしゃぐリンに追いつこうとするも、デンキは自分の体から重い音がしたことに気がついた。

 そして体が軽くなったことに気がついた。

 右腕が、落ちていた。

 そして、あっという間にデンキはばらばらにされて、それから。

 動けなけなくなった。


「デンキ君みてみて! 鶏のお肉!」

 リンは振り向いて、いるはずのないデンキに同意を求めた。

 デンキは、跡形もなく消えていた。


 残されたのは、左足の一本だけ。


「……えっ、あれ分解できんの?」

 呑気にリンは溢した。

「って、違う違う。犯人捕まえてデンキ君取り戻さないと」

リンはしゃがんで、地面を見て薄暗い路地にとびこんだ。男がデンキの左腕を包んで逃げようとしていたのだ。

 馬乗りになったリンは銃口を突きつけて、「あなたがデンキ君をバラバラにしたの?」「しっ、知らない!」とリンは引きちぎれそうになる怒りを抑えて銃を収めた。

 どごっ。

 そのかわりリンは男のみぞおちに深く拳をめり込ませて闇市に戻る。まだ仲間はそう遠くに入っていないと思いながらリンは焦っていた。このままデンキが戻らなかたっら、またこの荒野を彷徨わないといけない。

 一人は辛いから、誰か道連れを。

 リンは、己の頬を引っ叩き気合を入れ直す。

「デンキ君を探さないと」

 デンキは死なない。

 この前もこれからも。

 泡を吹かせた男から奪い取った無線機を逆探知して、他の仲間を一人一人暴力の名の下にデンキを一つづつ取り戻していった。

 胴体。

 右腕。

 右足。

 指。

(最後の頭が見つからない……)

 もうすぐ日が暮れる。

 もしかしたらもう闇市を脱出したのかもしれない。

 超能力の出番だ。

(なんかワガママな子供みたいで嫌なんだよなぁ)

 リンはため息をついて、その場にしゃがみ込む。

 そして指先を地面にそちょ置いてすっ、すっ、と地面に円を描く。

 まるでいじけた子供のように。

(頼れるのは目だけじゃないよ、デンキ君。私は足を踏む振動で誰が何を運んでいるのか解る)

 指先から伝わる振動を頼りに

 酒瓶を仰ぐ中年男性。

 粗末なうどんを啜る高齢の女性。

 折れた鉄パイプを振り回して走り回る子供。

 喧嘩するネコ。

 人の頭くらいの重さを担ぐ大柄な男。

(いた)

 目視して、確信へと変わる。

 ちょうどボーリング玉のような大きさの丸いものを抱え込んだ大柄な男。抵抗するデンキを押さえ込むように早足で闇市から出ようとしている。

 右腕を庇っているのは恐らくデンキに噛みつかれたのであろう。

(そう簡単に問屋はおろさないよ)

 リンは素早く装填して、狙いを定める。

 閉塞的な空間に風はないが、障害物が多すぎた。

(無関係な人が多すぎる……)

 リンの倫理に無作為に人を殺すという文字はない。

 正味リンの携帯するライフルは少し時間があれば威力を跳ね上げる機能は存在している。しかし多くの人間を犠牲にしてまでデンキを助け出したとしても、果たしてデンキはリンに感謝するのだろうか。

 否。

 だからリンは自分の命を削ってデンキを救うことにした。

 リンは操る。

 ずっ、ずっ。と、砂は人の手を催した形となり人々に忍び寄った。

 射程圏内人間全ての裾を引っ張って気を引く。

 人々の動きが、その瞬間だけ静止した。

 疑問を抱く時間はなかった。

 一発の銃声が人々の思考を貫いたにだ。

 リンは中年の男に跨り、後頭部に銃口を突きつける。

 転がった風呂敷の中身には、デンキが生々しいアザをつけて悲痛に表情を歪めていた。

「やっほ。デンキ君」

「……面目ありません」

「今度からもうちょっと気をつけよっか」

 リンは迅速にデンキを担いで闇市から立ち去った。

 その晩は、瓦礫の下で暖をとった。

 リンは丁寧にデンキの指示通りデンキを組み立てていった。悪戦苦闘するリンをなだめるデンキ。

「おそらく帝国の技工士の生き残りでしょうね。人を攫ってパーツを売って生計を立てているんでしょう」

 千切れる怒りの感情は少女を暴力に掻き立てる。少女は、少女は歯を食いしばってポケットからあるものを少年に贈った。

 誕生日のような祝福には満ちていない契りを具現化された安物。

「デンキ君。はいこれ」

「なんですかこれ」

「闇市で買った紐。二つあるの」

「…………」

「えへーお揃い」

「……一体何の意味が」

「デンキ君気がついたらフラフラどっかに行っているから。勝手に私の前からいなくならないでよっていう意思表示」

「……努力します」

 デンキは紐に手を通した。

TobeContinued.

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ガラクタ王国の王子様 さばよみ @sabayomi

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