第3話 ブルーベリージャム

「ママー、ルナがまたママの塗ったジャムだけ舐めているよ」

「リョウ、大丈夫。これはママの作ったシュガーレスジャムやから」

「えっ、それ食べたい」

「ええよ、食べて、食べて」


 新聞から顔を上げた一平が、


「おれも欲しい。ところで、あの工事は日曜日もするのか?」

「うん。コロナの影響で収入が減ってるから、稼げるときに稼ぎたいんやて」


 裏庭の芝生が掘り起こされて重機が入っている。


「また、おれはナオさんが畑でも作るのかと思ったよ」

「お義母様は、畑を作っているみたいよ。このジャムも送ってくださったブルーベリーで作ったん」


 一平が食パンにジャムを塗っていると、きれいにジャムだけが舐められた食パンをルナが差し出した。


「だめだ。きょうは終り」

「えー」

「ルナちゃん、またおなかちゅいた言っても知らんよ」


 ルナは諦めたのか、ジャムの紫色の残った食パンを囓りだした。



「おいちい」


 一平はジャムの載った食パンを囓りながら新聞に目を落として言った。


「奈良の鹿が暑いからコンビニに入って来るらしいよ。天然記念物だから無茶なことも出来ず、そっと、そっと、お引き取り願うらしい」


 人の気配がして、一平は顔を上げた。


「ああ、そう言えば、俺の知り合いが熱帯地方で暮らしていて、のら孔雀が冷房の効いた居住地に侵入して来ようとするらしいです。涼ませろってドア越しに睨むそうなんです。41度というから孔雀も暑いんですね」

「孔雀、見たことない」


 遼平が牛乳を飲みながら呟いた。


「顔なしさん、珍しいやん、2階に下りて来るの」

「あっ、コーヒーを切らしちゃって、わけてもらえませんか?」

「朝ご飯、まだやろ、お握りも食パンもあるし食べていったら」

「わあ、うれしいなあ。朝ご飯にありつけるなんて」


 顔なしの相性で呼ばれる通り、四角い白い顔にささやかな目が輝いた。


「そのブルーベリージャムは瑠璃子さんの庭で採れたものだって」

「おふくろのジャム、俺もいただこう」

「哲平さん、モンキーさん、今お皿出すわね」


 ナオはダイニングテーブルに皿を置きながら見上げた。


「あら、ガクさん、レイちゃんは?」

「少し気分がよくないみたいで」

「じゃあ、フルーツでも持って行ってみようかしら」

「すみません」


 ガクが椅子に腰をおろした途端、


「アクちゃ」


 ルナが飛びついて行った。


「ルナ、アクちゃは今からご飯だ。こっちに座っときなさい」

「はーい」




ーーーーーーーーー^^^^^^^ーーーーーー^^^^^^^^


土岐三郎頼芸さんの『熱帯で 暮らすワタシは よくぼや句』から、のら孔雀にご出演いただきました。

ありがとうございました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330656307066381










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る