夢を見た


 

俺とリリスが森の中を彷徨って早二時間が経った。俺達は森を抜けようと歩いているのだが、辺りを見渡しても木しかなくまったく先が見えてこない。ずっと森を彷徨っていて足が重くなってきた気がする……後なんかさっきからリリスがずっとニコニコしてて怖い。

 

「リリス様はここが何処だか分かりますか?」

 

「ん、分からんぞ。」

 

へーそうかー分からないかー、………嘘つけぇぇぇいい!絶対コイツここが何処か知ってるよ!!

だってさっきから俺がどんどん森を進んでいくのにつれて、リリスの顔に笑顔が溢れてくるもん!!この先に絶対に何かあるよ!!

 

「────誰かああぁぁぁ助けてくれぇぇ!!」

 

俺がリリスの笑顔とこの先にあるであろう何かに対して恐怖してると、何処からか誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 

「……とりあえず助けに俺は行きます。」

 

「……チッ。」

 

舌打ち?!おいこの魔王舌打ちしやがったぞ!やっぱりこの先になんかあるんだろ!!

 

 

 

 

 

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俺とリリスが悲鳴が聞こえた方に駆けつけると、そこでは一人の男が魔物に馬車から引きずり出されて襲われていた。

 

「あれは《野生型》の魔物だな。」

 

リリスはその魔物をみてふと口を開く。

 

「《野生型》?なんです、それは?」

 

「魔王軍の四天王とあろう者が知らないのか?」

 

「知らないです。」

 

うん、これは仕方がない。だって俺、魔王軍の四天王って言っても、俺は基本自分の部屋?ボス部屋?見たいな所で胡座描いてただけだし、そこまで深く魔王軍と関わってないのだからな!!(言い訳)

 

…………因みに俺はニートとかではないぞ!リリスに強制的に連れてかれたりして仕事とかはしてたからな!!

 

「…………《野生型》というのは普通の動物だった物が魔力により突然変異をして生まれた魔物の事をいう。」

 

あっ、そういえば俺が底辺時代だった時に、魔物の世話みたいのをクソ上級魔族にやらされた時にクソハゲ野郎が《野生型》がなんちゃらとか言ってたような気がする。

 

「そして魔物には《野生型》の他に《改造型》という物も存在する。」

 

「その《改造型》というのは?」

 

「《改造型》は魔力石などを糧に私達魔族が意図的に生み出した魔物の事だ。………例えるならスライムとかだな。」

 

なるほど魔物に《野生型》と《改造型》という物があるのか。………初めて知った。

 

「言っとくがこれは常識だぞ?」

 

「はは、常識なんて誰かが勝手に決めたものですよ。」

 

ってヤベ!悲鳴あげてる人助けるの忘れてた!すぐに助けないと………ってあれ?

 

俺は魔物が居た方を見ると既に魔物は黒焦げになって死んでいた。

 

「なんで???」

 

「ん、ああそれなら私がもう倒しといたぞ。」

 

ワーオ、流石魔王様、お仕事が早い。

 

 

 

 

 

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俺達は助けて貰ったお礼にとさっき襲われていた男に馬車で街まで乗せてもらえる事になった。ラッキーだね!!

 

「それにしてもどうして魔物に襲われたりしたんだ?」

 

俺は一つ気になった事があったので男に尋ねる。基本魔物は刺激したりしない限り襲って来たり、人間に近づいたりする事はないからだ。

 

「そ、それが、何故か魔物は周りが全く見えていない興奮状態になっていまして………」

 

「それでたまたま襲われた、と………」

 

俺がリリスに顔を向けると、リリスがスッと顔を横に逸らす。

 

………うーん、心当たりしかないな。

 

だってなんかあの魔物何かに恐怖してたし、本能が剥き出しになってたからな。

 

それに魔物に恐怖を感じさせて、周りを見えなくするなんて芸当ができるのは魔王であるリリスだけだしな。

 

多分、あの地雷を踏んだ時のリリスの魔力やオーラに魔物が当てられて恐怖し、興奮状態になって周りが見えなくなったと考えられるんだよな。

 

…………ってことはこの男の人が襲われたの多分俺達の所為やなぁ(遠い目)

 

 

 

 

 

 

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いつの日だったんだろう

 

 

 

 

俺が初めてこの手で命を奪ったのは

 

 

 

 

いつの日だったんだろう

 

 

 

 

俺が命を奪っても何も感じなくなってしまったのは

 

 

 

 

 

 

 

「───様!───様!」

 

耳元に声が響く。

 

「………なんだ?」

 

目を向けるとそこには2体の魔族がいた。

 

「人間の物質を乗せた馬車を数台見つけました!!」

 

「人間を殲滅しますか?」

 

意気揚々としている二体の魔族を横目に俺は淡々と口を開く。

 

「そうか……ならいいお前らは元の配置に戻れ、後は俺が対処する。」

 

「え?…し、しかし………」

 

「四天王である貴方様にその様な事をさせるのは………」

 

「関係ない……俺がやる。」

 

「「わ、わかりました………」」

 

俺に恐怖を感じたのか、二体の魔族は急いでその場を離れて元の配置に戻る。

 

「はぁ…………」

 

あーなんで俺が四天王になっちまったかな………誰かの上に立つのは苦手だってのに……畜生。

 

「そもそも俺に人を殺すとか無理だし………」

 

あー憎むぞ……こんなクソみたい世界に俺を転生させた奴。俺はダラダラ家で生活してたいだけだってのに………

 

ていうか俺を転生させたならチートを寄越せ!!昔、俺チートを実は持ってて強いんじゃね?って勘違いしたじゃねーか!!結局持ってなくて色々な事を試したり、強くなる為に上級魔族に喧嘩吹っかける馬鹿な頭になっちまったじゃねーか!!(血涙)チートplease!!

 

「おい!そこのお前!何をやっている!!」

 

「あん?」

 

声の聞こえた方を振り向くと、馬車の護衛であろう鎧を着た男が剣を構えてこちらを向いていた。

 

「ま、魔族?!し、至急!応援を…………グッ?!」

 

俺の角で魔族だと気づいたのだろう、鎧の男はすぐさま他の護衛を呼ぼうとする。

 

だが、俺は他に護衛を呼ばれたら面倒だと感じ、一瞬で後ろに周り込み、膝の関節部分に蹴りを入れ鎧の男のバランスを崩し、そのバランスが崩れた所を狙って頭を鷲掴みにし、地面に叩きつける。

 

「これ死んでないよな………」

 

軽く地面が凹むぐらいの力で地面に叩きつけてしまい、俺は鎧の男が死んでいないかが心配になる。

 

俺はそっと鎧の男の兜を外し、首の付け根の方に指を当てる。ドクン、ドクン、と一定のリズムで脈を打っているのが感じられる。

 

俺は鎧の男の脈は正常に打っている事が確認が出来てホッとする。

 

「流石に人殺しにはなりたくないからなぁ………」

 

魔族であって四天王である俺が人を殺せないなんて笑える話かも知れんが、俺の前世は人間だ。簡単に殺せる訳ない。というか殺したくない。

 

「とりあえず生きてる事は確認出来たし、鎧……剥ぎ取るか!」

 

 

 

 

 

 

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「貴様何処に行っていた!!もう移動するぞ!!」

 

「申し訳ございません!すぐに戻ります!!」

 

はい、という訳で人間の中に潜入しました!!

 

さっき鎧の男から剥ぎ取った鎧を、俺が着て潜入するなんて考えが思いつくなんて俺天才!!(自称)

 

あ、兜が凹んでいるのはしょうがない。

 

「おい…お前何してたんだ?」

 

俺が馬車の護衛の所に行くと、鎧の男の仲間であろう人物に話しかけられる。

 

「え、えーと、ちょっと外でおトイレを………」

 

「なんか声が変じゃねーか?」

 

「ちょっと喉の調子が悪くて………」

 

「なんで兜が凹んでるんだ?」

 

「石に躓いて頭を打ってしまって………」

 

「ふーん………ま、今度から気をつけろよ!」

 

HAHAHA!!コイツが馬鹿で助かったぜ!!(特大ブーメラン)

 

「それよりもお前、この馬車に何が積まれてるかの話は聞いたか?」

 

「いや、聞いていないです。」

 

なんだ?この馬車って普通に貿易とかで使う商品とか物質が積まれているじゃないのか?

 

「それが実はな………この馬車には奴隷が積まれているらしいんだ。」

 

「な!それは本当なのか?!」

 

「本当かは、俺達護衛に何も知らされてねぇから答えられないが、この馬車の持ち主の側近は何か知ってるみたいだぜ。」

 

潜入したのはいいが、何をするのか考えていなかったので丁度いい。それを確認しに行くか………

 

「おい……一応言っておくがこの馬車の持ち主は結構位の高い貴族様だ。刃向かったりでもしたら大変な事になるぞ?」

 

俺が話すのをやめて歩き出そうとした時、さっき話していた護衛に話かけられる。

 

「…………」

 

「馬鹿な事は考えるんじゃねーぞ。」

 

 

 

 

 

▼▼

 

 

 

 

 

 

俺はさっき話していた護衛と別れ、この馬車の持ち主であろう人物に物陰に隠れながら近づいていた。

 

目を向けて見ると、そこには側近らしき人物も三人いる。

 

「───コイツだけは丁重に扱えよ!」

 

この馬車の持ち主………クソデブが側近らしき人物達に指示を出す。

 

あれは………なんだ?

 

側近達が布が掛けられた一メートル位の高さがある物を運んでいる。それは人が一人、中に入れそうな程の大きさだ。

 

そしてそれを側近達がゆっくりと地面に置くと、その時にたまたま風が吹き、布がパサリと地面に落ちる。

 

「………?!!」

 

そこには金髪の少女が檻の中で座っていた。急に太陽の光を浴びせられて、腕で太陽の光を隠すが、だんだんと慣れてくるとその目には怒りが湧いていた。

 

「よくも!!………お父さんとお母さんを!!!!」

 

金髪の少女が勢いよく檻の中から怒りの言葉を吐き出す。

 

「チッ、少し眠らせろ!」

 

クソデブが側近に指示を出すと、側近は謎の煙を少女に無理矢理嗅がせる。

 

「絶対に……許さない………!」

 

そう少女が言葉を吐くと、プツンと糸が切れた人形のように倒れて眠ってしまう。

 

「気をつけろよ?コイツが傷付けば商品価値はなくなる。」

 

「「「は!」」」

 

本当に奴隷が積まれているとは…………それにしてもあの少女はエルフか?なんでエルフがあんな所に居る?

 

俺がもっとよく観察しようと前に踏み込むと、枝を踏んでしまい、ペキっと音が鳴ってしまう。

 

「誰だ!!」

 

クソデブと側近達が音の聞こえた方に勢いよく振り向く。

 

隠れるのは……もう無理か………

 

俺は潔く腕を上げて前の方に出る。

 

「貴様…………ひっ捕えろ!!」

 

クソデブが側近達に指示を出すと、俺は両腕を押さえられて地面に膝魔付かされる。

 

「なあ貴族様……」

 

「なんだ?」

 

「なんでエルフなんかを乗せてるんだ?」

 

それを聞くとクソデブが不快そうな顔をする。

 

「何故それをお前に教える必要がある?」

 

「いいじゃねーか、どうせ俺を殺すんだろ?冥土の土産に教えてくれよ。」

 

それを聞くとクソデブは数秒考えた後に臭い口を開く。

 

「ふん、いいだろう。冥土の土産に教えてやる。そいつはお前の言った通りエルフだ。しかも若くて美しい最高に価値のあるエルフだ。」

 

俺はクソデブの気持ち悪い返答に虫唾が走る中、一つ気になる事を聞く。

 

「質問を変える。なんであのエルフの少女は………お前らにあんなに怒っていたんだ?」

 

それを聞くとクソデブはニヤリと笑いながら俺を見据える。

 

「ああ、そんな事か………それなら簡単だ。私があのエルフの家族を殺したからだ。」

 

一つも悪いことはしていないという様な清々しい顔でクソデブは答える。

 

「言っておくが家族全員を殺した訳ではないぞ?商品価値のない父親ともう使われている母親を殺しただけだ。娘二人は生きている。」

 

「それがあのエルフの少女ということか………?」

 

「ビンゴ!正解だ。」

 

それだとおかしい………あの檻にはエルフの少女一人しか居ない。それに数台の馬車を探ったが奴隷なんて一人も積まれてなんかなかったぞ………

 

「………もう一人のエルフはどうした?」

 

クソデブが数秒考える仕草をし、ハッとした顔をする。

 

「ああ、あれか!あれならもう売れてしまったよ。………やっぱり、若くて美しいエルフは本当に高く売れてくれる。」

 

コイツは本当に人間なのか?と錯覚してしまう程、クソデブが悪意を込めた憎たらしい顔をする。

 

「さてもう冥土の土産には十分だろ?…………お前達やれ。」

 

クソデブが腕を上げて指示を出すと側近達が俺を押さえ付けるのを辞めて、腰に掛けてある剣を抜く。

 

「…………ああ、確かにもう冥土の土産は十分だな。」

 

俺はそっと頭に被っている兜を外した。

 

「な?!お前魔族だったのか?」

 

そして俺は鎧を脱ぎ捨て………

 

「何故魔族がここに居る!!」

 

服のホコリを払い………

 

「ただし、お前達の………だけどな。」

 

足に力を入れ、一瞬で姿を消す。

 

「え?」

 

勢いよく右手をナイフのように振り、側近の内の一人の首を跳ねた。

 

首から血が溢れ出し、地面へと広がっていく。

 

「俺はさあ、人間とか殺すのは無理だったんだけど………お前達を殺さないってのはもっと無理そうだわ。」

 

今度は動揺して動けないでいる、側近の内の一人の足の関節に蹴りを入れてバランスを崩し、地面に倒れた所を狙って頭を踏み潰す。

 

「うわああああぁぁあ!!!!」

 

赤い血が辺りに広がる中、声を上げて最後の側近が俺に剣を振りかざそうと走ってくる。

 

「ふっ!!!」

 

「………?!」

 

俺はそんなことを気にせず、後ろ蹴りを隙だらけの腹に入れる。そして側近は痛みによって手に力が入らなくり、剣を落としてしまう。

 

「た、助けてくれ………」

 

「……………」

 

俺はその落ちた剣を拾い、最後の一人にトドメを刺す。トドメを刺した際に血が吹き出し、血が俺の頬に張り付く。

 

「後は………お前だけだな?」

 

だが、俺は頬に血が付いているのを気にせず、冷たい目でクソデブを見据える。

 

「こ、こんなことをわ、私にしてみろ!!わた、私は貴族だからきっと私を殺したら私を探しに騎士団がここに来ることになるぞ!!」

 

「貴族とか知るか………そんな事、人間が勝手に庶民とか貴族とかって分類して決めただけだろうが!!」

 

俺はクソデブの膝をありったけの力を込めて踏みつけ、骨を粉々にする。

 

「ぎゃああぁぁぁぁーー!!いた、痛い、痛い。」

 

クソデブが足があらぬ方向に曲がり、その痛みにより声を上げる。

 

「ひぐ、ヒグゥ、も、もう十分だろ?み、見逃してくれ………」

 

「……………」

 

俺が剣を下に勢いよく振ると、クソデブの右腕が宙に舞い、右肩から血が溢れ出す。

 

「ぎゃあああああ!!!腕が!わ、わたしの腕が!!」

 

クソデブが自分の右肩を押さえながらのた打ち回る。

 

「見逃してくれ?…………お前の殺したエルフが同じ事を言ってもお前はそれを見逃したか?」

 

「そ、それは…………」

 

俺は剣を持ち直し、クソデブに向ける。

 

「お前はもうその答えを知ってるから分かるよな?」

 

 

 

 

 

 

 

▼▼

 

 

 

 

 

 

 

「──────」

 

 

 

ああ、やっちまった。

 

「クソ…………」

 

変な気持ちだ。爽快感もなければ嫌悪感も感じない。

 

「………………」

 

俺はふと檻の中にいるエルフの少女を見る。金の長くて美しい髪が俺の目に留まる。

 

きっとあの髪は母親か父親から受け継いだのだろう。

 

そんな事を考えていると、あのエルフの少女が両親達と幸せに生活しているのを想像してしまい、居た堪れない気持ちになる。

 

なので俺は檻を無理矢理こじ開けて、エルフの少女をそこから救出しようとするが、手が止まってしまう。

 

俺は魔族だ。色々な種族と敵対している嫌われ者の魔族だ。こんな俺だと、この少女を怖がらせてしまうだろう。

 

「角ぐらいは隠すか………」

 

俺は角を魔法で隠し、少女が血で汚れないように血だらけの服は脱ぎ捨てる。

 

「あ、あなたは………?」

 

そんな事をしている間にエルフの少女が目を覚ましたのだろう、おぼろけとした瞳で俺の事を見る。

 

 

 

「…………ただの感情に身を任せた馬鹿だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────おい。」

 

ん、なんだ?

 

「──────おい、着いたぞ。」

 

「………うぇ?」

 

リリスが俺の身体を揺さぶり、俺の意識がゆっくりと戻ってくる。

 

「…………寝ちまったのか?」

 

随分と昔の事を夢に見た気がする。…………気分は良いとは言えないがな。

 

「おい、そんな事よりも街に着いたぞ?」

 

「街?」

 

「ああ、聖都ウィレイスにな………」

 

 

 

 

 

 

 

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勇者も魔王も聖女も俺をほっといてくれ!! スカルS @skulls

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