COUNT

無名

1人目

僕は小さい頃からテレビや映画が好きだった。

ドラマを観ては主人公を気取って街を歩いて、映画を観た後はまるでアクション俳優のように動き回っていたものだ。

それでも「あのテレビを見た」や「あの映画が好きだ」と周りに言えない内気な性格ではあった。

頭の中では世界の危機を救うヒーローや、皆が名前を知っていて讃え慕うリーダーのつもりだったが、現実では同じクラスでも「あの人の名前なんだっけ?」となるような人間になっていた。


そんな現実と幻想の境が分からないまま中学生になった。

もちろん、こんな根暗にわざわざ接してくれる人もおらずいじめもせず、いじめられる事もないまさに“ただそこにいるだけ”の存在だった。

「よし、お前ら5人のグループ組め〜」

先生がこんな事を言っても、もちろん最後の方まで余ってる人間だった。

その後のグループ活動も4人+1人というような感じで、ただ頭数に入っていただけだった。

面白い事を言えるわけでもなく、運動神経抜群でみんなを見返せる何かを持っていた訳でもなかった。

「社会人になれば全てが変わる」

そう思って、自分なりに勉強は頑張っていた。

赤点は取った事はないし、中の上くらいの成績ではあった。

それを中学、高校、大学と続けて、ひたすらに頑張っていた。

「勉強して社会に出て、いい会社に入れば自分も変われる。」

そう思っていざ社会に出たが、自分は大きな勘違いをしていた。

ただ勉強しても、ただいい学校に進学しても、ただいい会社に入っても、それを「自分から」発信できなければ意味がないと。

気がつけば、「ただ勉強ができて、いい会社に入っただけの喋らない人」が生まれていた。


最初は「同期のうちの1人」として同期達も話しかけてくれたり、優しくしてくれていたし気を遣ってくれていた、自分が誰よりも分かっている。

それでもその優しさを返せていない自分に腹が立った。

そのうち皆、持ち場や担当を持つようになり、同期のうちの1人から、部署のうちの1人になり、気がつけば会社にいる人のうちの1人になっていた。


悲しいくらいに惨めだった。

後輩ができても仕事を聞きに来てくれた人はいない。

勇気を持って事前に話す内容を考えて話しかけても、1人の相手と目が合うと言葉が全部ぶっ飛んだ。

結局どもりまくって、しどろもどろの「言葉の集合体」のような物しか口から吐き出せなかった。

そんな僕は気がつけば精神が荒み、壊れていた。

朝起きて頭に浮かぶ思考は「死」しかなかった。

電車で隣に座ってる2人組のカップルを見れば、喋れない自分と比べ勝手に病んでいた。

全てが終わっていた、そんな自分で今を生きているのが苦しくなった。


気がつけば1本のロープを買っていた。

「もう死んでやる」

そんな1つの思いと同時に1つの期待を抱えていた。

「死ねば誰か1人くらいは悲しんでくれるんじゃないか」と。

手は震えていた、ワクワクか緊張かは分からなかったが心臓はバクバクしていた。

片方で輪っかを作り、片方は天井に吊るした。

僕は輪っかを首に通し、椅子を蹴って首を吊った。

















「次のニュースです、都内のアパートで会社員の男性1人の遺体が近隣住民の通報によって発見されました。警察は関係者や男性の家族などから書き込みをし、自殺に至った経緯を調べるとの事です。」

「さぁ、次のニュースはスポーツです!日本人メジャーリーガーの大谷選手が……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

COUNT 無名 @a_stro7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る