第21話

「なあ、新堂。悪かったな」


「――え? 何が? むしろ、こっちこそごめん。あんまり力になれなくて」


「そんなことないだろう。優里奈姉との言い合い、あれがなかったら隙をついて逃げれなかったしな。助かったし、そんで、それと一緒に謝りたくもなった。お前に魔法をかけたおじさんも、きっと俺の身内だろうからさ。それがきっかけで、危ない目に合わせちまった。魔法をかけたおじさんの分と、無理矢理連れ出した俺の分、謝りたかったんだ」


「んー。別に私は気にしてないけどね。空を飛べたりして楽しかったし、それにおじさんの魔法っていうのも、私を守るためのものなんでしょ? だったら、むしろ感謝するよ。おじさんの魔法がなかったら、私どうなってたのかも分からないんだし」


「――そっか。確かに、おじさんに関してはそうかもな」


 魔法がなければ、どうなっていたか分からない。そして、今もなお継続してシールド魔法が発動されているということは、まだ茉莉に対して何かしらの災いが起きようとしていることを意味しているのだろう。


 おじさんと出会った過去。その時だけではなく、未来にまでも危険が迫り続けている。


 奏多は拳を強く握り、思った。

 

 おじさんのかけた魔法がいつまで効果を発揮し続けるのかは分からない。それはつまり、今この瞬間に切れてしまっても不思議ではないということだ。シールド魔法が切れたら、新堂はどうなる? 切れる前に魔法を二重にかけてもいいが、それをするときっと、新堂の身体に負荷がかかり過ぎることになるだろう。


 一番良い方法は、原因そのものを排除してしまうこと。だがしかし、彼女にどんな危機が迫っているのか。それを知っているのは、おじさんだけだ。


 奏多は身体を横にして、ベッドの上で仰向けになっている少女に視線を向けた。暗闇になれた視界の中で、うっすらと彼女のシルエットが見える。


 これまで奏多は、自分が魔法使いであるがゆえに、あまり他者と関わらないように生きてきた。自分の魔法が暴発して相手を傷つけてしまうのも怖かったし、何より、普通とは違う自分を恐れてしまわないだろうか、という恐怖心があった。


 だから、人と関わる時は出来るだけ心を隠して、創り上げた自分でいた。


 でも。不思議と今日は、素の時間でいられることが多かった。あんなに、自分の魔法を自慢気に披露することなんて、これまでにはなかったことだった。


 自分の魔法を、楽しい、と言ってくれたのは、産まれて初めてのことだった。


「……新堂。明日こそは、見つけるぞ」


 おじさんを見つけることは。視線の先で無防備に横になっている彼女を助けるためにも、必要不可欠なことであった。

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