第20話
食事を終えて、茉莉はシャワーを浴びに行った。その間、初めて入った女子の部屋に一人残された奏多は、そわそわしながら居心地の悪い様子で茉莉が戻ってくるのを待った。
しばらくして戻って来た茉莉から良い香りが漂っていて、そのせいなのか勝手に鼓動が早くなる胸に、一人静かに怒る男子の姿がそこにはあった。
「今日はもう疲れたし寝たいんだけど、ベッド一つしかないんだよね」
お互いに、意識するな、というのはやはり無理な話だった。このような状況になれば、たとえ思春期の男女でなくとも考えてしまう。
表面上では、簡単に解決出来る問題ではある。茉莉のベッドで茉莉が寝て、奏多はカーペットが敷かれた床で寝ればいい。茉莉の中にもてなす気持ちがあって、それを良しとしないのであればまた考え直す必要があるが、それでも唸るほどに悩むことはないだろう。
厄介なのは、表ではなく裏だった。
男女の関係に深く結びつく結果を導き出すべきなのか、それとも全く関係のないものでよいのか。
二人ともに、前者の解答が先に出て来てはいたが、それを口にすることは出来なかった。
つまりはそう。一緒に一つのベッドで寝るのかどうか、ということだ。
と、ここまで考えて置いて、やはり思春期の男子なだけに変に意識していると思われたくなかったのか、奏多は颯爽とカーペットに寝転がった。
その行動は、奏多にとっては格好をつけるためだけのものだったのかもしれないが、茉莉には気を遣ってくれているように感じられた。
今日一日、初めて身内以外の男との時間を過ごしてみて、茉莉の中で異性に対する恐怖心が、徐々に薄れ始めているようだった。
「先輩、電気消すね」
ベッドの上で横になって、茉莉は枕元に置いてあった照明のリモコンを操作した。暗くなった部屋には、二人の息遣いだけが静かに響いている。
見えるものがなくなり、リラックスした状態になって茉莉はふと思った。この先輩は、どうして泊まりに来たのだろう、と。
校門前での状態から見るに、魔法をまだ使う余力は全然あっただろうし、あの時見せていた下心のようなものは、部屋に来てからは感じない。そもそも、本当に下心が理由だとしたら可笑しな話だ。イケメン先輩は、何時だって好みの女子を選べるぐらいに、人気があるのだから。今日初めて出会った、そこそこの容姿の女子をわざわざ選ぶ必要がない。
だからきっと。私ではなく、おじさんを求めて、彼はここに来たのだろう。そう結論づけて、茉莉は考えるのを止めた。
どれだけ求められても、今の茉莉には、公園以外の手がかりを提供することは出来ない。
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