第18話
言われてみれば、確かにおかしかった。
奏多がこの公園に来た目的が自分たちと同じで、得体の知れない者の捜索だとして、ならば、奏多はその情報をどこから得たというのだろうか。
普通なら、叔母の近辺から漏れた、と考えるのが妥当である。魔法管理局には、この公園で魔力を持った何者かが現れた、という不可解な現象を知られてはいないはずなので、情報は叔母のもとにしかない。
そう考える。そう、普通ならば。奏多が、一人でこの場に来ていた、ならば。
「あいつ、何か知ってやがるんだ。あの日、ここで起きた何かを、あのクソガキは知ってやがる。ぼっちゃんは、あのクソガキから情報を得て、ここに来てたんだ。ははっ。今度会ったら、単純に腹が立つからボコボコにしてやろうと思ってたが、どうやら、それ以外の理由でもボコボコにする必要が出て来たみてぇだな」
「なるほど。口を割らぬなら、暴力で、と。うーん、昔の血が騒ぎますな、総長」
「当然、ぼっちゃんは全力で抵抗してくるでしょう。いいんですか、総長?」
「弟の躾も、姉の役目だからな」
本来、三人が捜索して捕まえるべきは奏多と、得体の知れない魔法使いのはずであった。だがどうやら、全てをその手に掴むためには、魔力を持たない、いたいけな一人の少女を、力づくで捕える必要があるようだった。
「とーっちゃっく!」
茉莉はすっかり空中ジェットコースーターに慣れたようで、奏多の手を借りずに軽やかに校門前に着地した。茉莉に続いて奏多も側に降りてくる。
「すっかり暗くなっちゃったけど、先輩どうすんの? 家、ないんでしょ?」
「まあ、適当にその辺で寝るさ。魔法を使えば、山の中に簡単な小屋とか作れるしな」
「さっすが、便利だね。じゃあ、私の家、泊まらなくていいんだね?」
それは、茉莉にとっては単なる確認だった。寝れる場所が確保出来るのなら、寝床を提供する必要はないんだな、という業務的な会話のつもりだった。
だがしかし。奏多には、別の意味を含んでいるように感じられてしまった。さきほど過去を思い出して、優里奈が脱ぎ捨てた下着なんかを見て身体を熱くさせたことがあったな、なんてことを考えたせいか、完全に男子の思考に脳が支配されていた。
家に泊まると、何かあるのか? 彼女は、泊まってほしいと、そう思っているのか? もう一度言うが、泊まると、何かあるのか!?
普段。女子に囲まれて鬱陶しく見せている奏多ではあるが、何も俗物なわけではない。年相応に女性に興味だってある。
ただ、あまりにも周囲が慌ただしく騒がしいものだから、何時も寄って来られても苛立ちが勝ってしまって、側に来た女子たちを異性として見れていなかったのだ。
このように。
人気のない薄暗い道の上で歳の近い女子と話していることを意識してしまうと、強大な力を持った魔法使いも、その辺にいる思春期の男子と大差なかった。
「今から……山の頂上付近まで風魔法で飛んで、木々を切って、小屋を造って、ってしないといけないんだが……そういえば、俺、今日、結構魔力、使っちゃってたわ……。あー、ちょっとしんどいかもなぁ…………」
「…………おい。トラウマ軽くしてくれて、また重くするつもりなん? 本当に魔力ないなら、ぶん殴って確かめてみようか? 魔法で防げないんだよね?」
大きく右腕を引く茉莉。気持ち悪い男を撃退するためのイメージトレーニングと筋トレは、毎夜かかさず行っている。初めて、その効果を試す時が来たようだ。
「え、いやでも! そっちが聞いてきたんだろ!」
「そうだよ? 泊まるか、泊まらないか、それを聞いたの。誰も、気持ち悪い言葉を並べろなんて言ってない」
「あー、ごほん。ホーリーライト、使ってもいいか?」
「マジで殴るよ? てか、殴った後も蹴る」
「どうしたらいいってんだよ!」
「はっきり言えってんだよ! この、童貞野郎!」
暗い空の中を、一人の少女の怒号が飛んで行く。そして続いて、泊めて下さい、とか細い声が静かな夜道の中に溶けていった。
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