第17話

 格好良く決意を表明する奏多の横で、茉莉はじっと彼を見つめていた。見惚れていた、なんてこともあるのかもしれないが、どうにも怪訝な顔をしているようである。


ねぇって、どういうこと? 先輩のお姉ちゃんなの?」


「あ……、しまった、つい昔の癖で……」


「え、なになに!? 先輩、あの女となんか関係があんの!?」


「ふふふっ、知りたいか小娘? 私とぼっちゃんのあま~い生活を――」


「いいから、さっさと行くぞ!」


 奏多は優里奈の言葉を茉莉に聞かせないように、すぐさま茉莉を連れてその場を飛び立った。


 まあ、飛んだところで、帰路の途中で茉莉の質問責めにあうわけなのだが。結局、茉莉があまりにもしつこいものだから、奏多はしぶしぶ自分と優里奈の過去を話した。と言っても、それほど大層なものでもない。


 小・中の学生時代、奏多は魔法管理局によって管理されてはいたが、基本的には叔母の家で暮らしていた。そこに叔母の側近として優里奈とその手下二人がいた、というだけの話だ。


 奏多と優里奈の歳が七つ離れていて、優里奈の面倒見も良かったこともあって、なんとなく、姉と弟のような、そんな関係図が出来上がっていた。


 そこまでを話して、茉莉はとりあえずは落ち着いたようだった。奏多はほっと一息をついてから、唾を飲み込んだ。姉のように感じてはいるが、血縁ではないことは事実で、やはり多感な時期の男子には時々刺激が強い出来事もなかったわけではないな、とそんな過去の映像を唾と一緒に、奥底に飲み込んだ。


 一方、公園に残された優里奈は、二人に目を開けるように命じてから、疑問を投げかけた。


「お前ら、どう思う?」


「ぼっちゃんがここにいたこと、についてですか?」


 大男が震える重低音で応える。


「ああ。今回私たちがぼっちゃんと出会ったのは、偶然だ。ぼっちゃんを探していたわけじゃないからな。別の探し者をしていたら、そこにぼっちゃんがいた」


「まさか、ぼっちゃんも我々と同じだったと?」


「何の目的もなく、こんな所まで来るか?」


 叔母には、既に奏多の居場所が分かっていた。だからこそ、奏多が学校に行っている間に権力を使って、通常一月後になる借家の解約を当日に行うように契約を結ぶことが出来たのである。住んでいる場所が分からなければ出来ない芸当だ。


 だからこそ、叔母は奏多の捜索に力を入れていなかった。居場所が分かっているのだから、何時でも取り戻すことが出来る。それに、今日のように奏多の部屋を解約してしまえば、いずれ自ら戻って来るだろうとも思っていた。


 対処が容易なものは後ですればいい。


 叔母は、優里奈たちに奏多ではなく別の者の捜索を依頼していた。それは、優里奈たちが叔母の世話になるようになってから、時折依頼されるものと同じ内容だった。


「十年前。紀代子様が一瞬だけ感知した魔力の出所が、ここだった。突然現れて、そしてまたすぐに消えた。当時も魔法使いは紀代子様とぼっちゃんの二人だけだったはずなのに、正体不明の何者かが、この場所に現れたんだ」


「何年も訪れ探して見ましたが、手がかりも掴めず――」


 長身痩躯の男が、優里奈の言葉に続けるようにして喋り出した。鳥たちに仲間意識を芽生えさせるような高い声色が、公園内に響いている。


「しかし、総長。ようやく、ようやく掴めましたな」


「――はあ? 何が掴めたってんだよ。ああ、そうか。ぼっちゃんを連れ戻して、何か問い質せば――」


「違う違う。そうじゃない、そうじゃなーい」


「うっぜ。歌うな、蹴り倒すぞ」


「お楽しみは後で頂くとしまして、総長、手がかりはぼっちゃんではありませんよ。隣にいた、あの女子高生です」


「――あ」

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