第16話
再び風の外套が二人の身を包んで、瞬きするよりも早く身体が宙に浮かんだ。奏多は隙をついてウィンドクロウズを放ち、見事邪魔されることなく逃げ出す準備が出来たのだが、予想外にも隣にいた少女が騒ぎ始めた。
「せ、先輩! ちょっ、私スカート! 見られる見られる!」
茉莉は懸命にスカートを抑えてはいるが、真下から見上げてしまうと、完全に隠れてはいなかった。
屋上で浮かび上がった時は、奏多と茉莉の二人だけだったので特に気にすることもなかったが、今は視認できる距離に男が二人真下にいる。まあ、女ならいいというわけでもないのだが、それでもやはり男だけはいけない。過去のトラウマが軽くなったとはいえ、茉莉が男を平常心で見ることはまだ出来ない。奏多が特別なのだ。
不安定な今の状態で男に性的な目を向けられたら、またトラウマが増幅してしまうかもしれない。慌てふためく茉莉の姿は、傍目から見れば冗談めいているようにも見えたが、当の本人は気が気ではなかった。
それを悟ったわけではないのだろうが――
「おい! お前ら、目を閉じろ!」
女が叫ぶと、二人の男は瞬時に目を閉じた。疑問を呈することもなく実行するその様は、明らかな上下関係が描かれている。
「あ、ありがと……」
一応、礼を言う茉莉。さっきまで言い争っていたのもあって、いまいち口ごもってしまう。
「私も女だからな、気持ちは分かる。それに、なんだかお前の場合、尋常でもなさそうだしな。まあ、次会ったらボコボコにしてやるからな、クソガキ」
中指を立てて挑発する。茉莉はそれに対抗して、親指を下に向けた。
「ぼっちゃん。さっきも言いましたが、逃げても帰る家はもうありませんよ。まさか、その女の家に泊めてもらおうだなんて思ってないでしょうし、観念してお戻りになる方が賢い選択です。降りて来るなら、今の内ですよ」
大人の言いなりになりたくない、などという可愛げのある我儘ならまだよかった。奏多にとって、叔母に属する人間や魔法管理局の人間に反発するのは思春期によるものではなく、自分が置かれた環境から脱するために行える簡単な手段だった。反発したから魔法使いを辞めることが出来るわけではないが、それ以外の方法が分からなかった。
これまでは。
ようやく見つけた、微かな希望。茉莉の出会ったおじさんなら、魔力を消す方法を知っているかもしれない。仮に消せなかったとしても、感知されない何かを持っているかもしれない。
不意に落ちてきた可能性の欠片。それに手を伸ばさないわけには、いかなかった。
「悪いな、
「ぼっちゃん……」
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