第15話

 奏多は後ずさりをしながら、三人の大人と対峙していた。その横で、茉莉は見慣れない光景を目にしながら、苛立ちを覚えていた。


 奏多が魔法使いであることは、叔母の側近であろうこの三人も当然知っていることだろう。なのにこの三人は、特に真ん中に立っている女は、余裕の笑みを浮かべながら奏多と向き合っている。


 敵対している相手が魔法使いだと分かっているなら普通、魔法に怯えないわけがない。奏多が攻撃的な魔法を使っていないので明確には分からないけれど、その気になればきっと、一瞬で人の命を奪う魔法だって使えるはずだ。


 それを危惧していないということはつまり。この三人は、奏多のことを分かっているのだ。


 奏多が、人を傷つけるために魔法を使わない、ということを分かっているからこその、あの表情なのだ。


 人の優しさに付け込んで調子に乗っているような、あの感じ。本当に、腹が立つ。特に、あの女。


「新堂! 飛んで逃げるぞ!」


「飛んでもいいですけど、動いた瞬間に撃ちますよ?」

 

 女がそう言って、三人は黒く輝く拳銃を取り出した。テレビの中でしか見たことのない凶器に茉莉は目を丸くして怯んだ。


 茉莉の怯えた姿に気付いたのかどうか不明だが、奏多の魔法が炸裂する。お得意? の風魔法が、牙の無い獰猛な三つの口を切り裂いて、残った胴体は人の手の中にある銃把のみとなった。


「――っ! お、お見事」


「別に褒められても嬉しくないけどな。俺は慣れてるけど、こいつにはそんなもの向けるなよ」


 じろり、と女の目が茉莉に向く。見たことのない敵意に怯えはしたが、本来我の強い茉莉である、睨まれることには何の恐怖心も抱かなかった。


 むしろ、睨み返してやることが礼儀だとすら、思っている。


「魔法を見ても驚いていないみたいですし、ぼっちゃんが話されたんですか? 

 あんなのが趣味だなんて、止めといたが方がいいと私は思いますけどね」


「いや、別に趣味とかそういう――」


「先輩はちょっと黙ってて」


 奏多が弁解する暇を奪い取り、茉莉が躍り出た。


「別に奏多先輩の女ってわけじゃないけど、人の趣味にとやかく言わないでくれる? てか、男二人はべらせていい気になってるおばさんの方がどうなのって、感じ。人の趣味に愚痴つける前に、自分の性欲どうにかした方がいいんじゃないですか~?」


「ああ? 男も知らねぇようなガキが、何分かったような口利いてやがんだよ! ボコすぞ、オラァ!」


「うわぁ。ねえねえ、聞いた先輩? あの人さっきまでおしとやかに喋ってたのに、本当はあんな野蛮な喋り方するんだねぇ。顔も皺だらけになっちゃって、うわぁ。野生の猿が山から下りて来たのかと思っちゃった」


 奏多は巻き込まれたくないらしく、茉莉の言葉を無視して目線を逸らした。


「ピーチクパーチクよく喋るなぁ。でもまあ、いいのかもな。動物園なら確定で就職じゃん、おめでとう。高校生の内から就職先決まってるの、結構ラッキーだぞ。それだけ騒いでくれたら、お客さんも大喜びだろ。なあ、お前ら」


 左右に立つ二人の男は、猿も動物園に就職出来るのでは、と内心思いながら、若輩の魔法使い同様目線を逸らした。


「私が動物にたとえたから、そっちも動物にって……はあ、おばさんになるとやっぱ脳の働きも落ちるみたい」


「わざわざガキのレベルに合わせてやってんのが分からない、っていうのがもう、ガキの思考なんだよなぁ」


「「……うっざ」」


 二つの言葉の濁流が止まって、静寂が訪れた。その隙を、蚊帳の外にいた魔法使いは見逃さなかった。

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