第14話

 何か良い手はないだろうか、と思案する二人。そもそもおじさんの捜索をするにあたって利用できる材料が茉莉の記憶しかなかったため、記憶の中にあった公園で次の捜索の一歩を掴めなければ動きようがなかった。


 茉莉の抜け落ちた記憶を戻せば何か分かるかもしれないとも思ったが、恐らくこの、記憶がない、のも魔法によるものだろう。


 それにしても、偏見ではあるのだろうけれど、おじさんは茉莉に聞いた風貌とは似つかわしくない、強力な魔法使いのようだ。


 茉莉にシールドの魔法をかけ、そして意図が不明の魔力の膜を張り、更には茉莉の記憶を奪った。極めつけは、空間転移である。シールドや魔力の膜は造作もないことだが、記憶を奪った後に空間転移をするとなると、正直、奏多も一か八かなところがある。もしかしたら、歴代一の魔力量を誇る奏多よりも優れた魔法使いなのかもしれない。


 もしそうだとしたら。それだけ強大な魔力を持った魔法使いが見つからず管理されていない、という状態が不可解さを増す。魔力を失っているでもしない限り、見つからないわけがないだろう。


「すぐには次の一手が出てきそうもないし、取り合えず今日は帰るか」


 やはり第二手は用意されていなかったのか、と茉莉は落胆しながら魔法使いの言葉に従うことにした。


 どうにかして、魔法管理局の中に忍び込むことは出来ないだろうか。茉莉は、新しい策を考えていた奏多とは違い、既に出ていた案を実行するための策を考えていた。

慣れない考え事を繰り返して、頭が痛くなってくる。とりあえず、アトラクションを楽しんでリラックスしてから、またもう一度考えよう。


 そう思って茉莉が奏多の側へ歩み寄って行った時――


「やっと見つけましたよ。奏多ぼっちゃん」


 突然背後から女の声が飛んできて、茉莉はすぐさま振り向いた。そこには、見知らぬ人間が三人、スーツに身を包んで佇んでいる。


 パンツスーツの女を真ん中にして、左右にそれぞれ男が一人ずつ、眼鏡をかけた長身痩躯の男と、プロレスラーのようなガタイの良い大男が並んでいる。


「誰? もしかして、魔法管理局の人?」


「いいや、違う。そっちじゃなくて、叔母の方の人間だ」


「あー」

 

 と。茉莉は納得した素振りを見せながら、内心、奏多がぼっちゃんと呼ばれていたことを思い出して笑ってしまいそうになっていた。これはきっと、家出していたお坊ちゃまを連れ戻しに来た、というシリアスな場面なのだろうから、笑ってはいけない。しかし、我慢すればするほど、笑ってしまいそうになる。


「さあ、帰りますよ。紀代子様も、ぼっちゃんの身の安全を心配しておられます」


「するかよ、そんなもん。心配してんのは、俺じゃなくて魔法使いの家系が途絶えること、だろ。俺は魔法使いなんていらないと思ってるから、そっちの方が全然いいけどな」


「ぼっちゃんはまだお若いですから、世界にとって魔法使いの存在がどれほど重要なのかお分かりではないのです。まあ、それはおいおい理解して頂けるでしょうから、とりあえず今は、管理局に帰ってもらいます」


「叔母さんもすっかり国の犬だな」


「どうとでも言ってください。ちなみに、ぼっちゃんが紀代子様の名を使って勝手に契約していた部屋は、解約済ですから」


「手が早いな、くそったれ」

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