第8話
「じゃあ、また放課後だな。二人でそのおじさんの捜索をするぞ」
「別に私は今からでも構わないんだけど。なんで放課後?」
「まだ学校、終わってないだろ」
「あ……――っすね」
男だとか言う前に、人として根本的に合わないような気がする。おじさんを探し出すのに奏多の存在は必要不可欠なのだろうけれど、この先やっていけるのだろうか。
「そういえば、あの魔法すごいね。まだ奏多先輩と一緒にいても気持ち悪くならないや。上乗せしてくれたおかげかな」
「いや、もう魔法の効果は切れてるはずだ。今の新堂は、素の状態だ」
過去のトラウマが自分の中で少し形を変えたからなのか、それとも、相手が創玄奏多だからなのかは分からない。でも、茉莉が奏多と一緒にいて、いつものような不快感に襲われることはなくなっているようだった。初対面ではしっかりと気持ち悪く思えたはずなのに。茉莉は普通の状態でいられることに嬉しくもあるのだが、どこか不満もなくはなかったようだ。
「初めての男……か」
「俺より新堂の方が、絶対気持ち悪いよな」
「普通、健全な男子高校生なら、意味深な発言にドギマギすんじゃないの? ああ、奏多先輩は健全じゃないのか。ご愁傷様」
「お前、俺が魔法使いだって分かってるよな? その気になれば――」
「でた! 光魔法で女を篭絡して我が物にしてやる気だ」
「もういい、話したくない。新堂がいた方が、おじさんを探しだやすいとは思うから共に行動はするけど、必要最低限な会話以外しねぇ」
「それはひどくない? お互い秘密を共有している仲でしょ。おじさんの話なんて、奏多先輩以外にしたことないんだよ」
「…………俺が魔法使いだってこと、絶対誰にも言うなよ」
「言わんし。やっぱ奏多先輩って、どっか根暗だよね。髪の色は明るいのに」
「関係ねぇだ――」
「ねえ、もうとっくに授業始まってるよ? 戻らなくて、大丈夫?」
からかって、小首を傾げる茉莉。奏多は茉莉に怒りをぶつけたいという思いと、早く教室に戻って授業を受けたいという思いがせめぎ合って、一瞬動きを止めた。
どうやら数秒の競り合いののち授業の方が勝ったようで、いまいち聞き取れない捨て台詞を吐きながら走って校舎へと戻って行った。
茉莉はその場でじっと、次第に小さくなっていく奏多の背中を見続けている。
「――くそっ」
奏多の姿が見えなくなってから、茉莉は吐き捨てるように呟いた。
男とまともに会話をするなんて、何年ぶりだっただろうか。記憶にあるのは、父親や教師との業務的な会話、そして公共の場でのやり時だけだ。
同年代の男と会話をするなんて、女としての自覚が芽生えてからは初めてのことだった。
そんな初めてのことが、楽しい、と思えてしまって。もっと奏多と話をしていたかったと、どこかで思っているような自分を認めたくなかった。
恥ずかしいような。悔しいような。
とにかく。本当に篭絡されたような気がして、無性に腹が立って仕方ない。
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