第7話

「そのおじさんはもしかしたら、自分の中の魔力を消す方法を知っているのかもしれない。魔法使いのままで何十年も姿をくらましているなんて、ありえないだろうからな。もしそうなら、なんとしてでも探し出して聞き出してやる」


 奏多は物心ついたころから、自分が魔法使いであることを恨まない日はなかった。行動の全てが管理され、就寝時間や起床時間はもちろん、食事のメニュー、その日の出来事、更には生理現象までもが把握されていた。


 年齢を重ね、自分が生きている環境が異様なのだと理解した奏多は、疑問を呈したことがある。すぐさま返された回答は、魔法使いだから、ということだった。


 自由への翼を産まれた時から刈り取られていた奏多は、自由を求めて何度か檻の中を飛び出したことがあった。結果として脱出は成功するものの、奏多の中にある魔力は茉莉のような残滓レベルのものではなく、その強大さゆえに、魔力感知器なるものですぐに見つかってしまう。


 連れ戻される度に、次こそは、と意気込んでいた奏多は、またこうして現在数十回目の短い自由を満喫しようとしていたのだ。きっとまたすぐに見つかって連れ戻されるのだろうと、既に諦めてはいる。魔法使いである限り、普通の人生など送れやしないんだ。


 そう思っていた矢先、魔力の波動を感じる少女を見つけた。茉莉である。奏多は複数の女子に囲まれながら、突然感じた微々たる魔力の波に当惑した。そして同時に、喜びもした。


 魔力を持っているということは、魔法使いであるに違いない。だが、自分と叔母以外に魔法使いがいるだなんて話は聞いてないし、実際に自分が生活していた管理下にある家屋で、あの少女の姿を見たことはない。それはつまり、管理を逃れられている魔法使いだということだ。


 自分が喉から手が出るほどに欲している環境を、あの少女は手に入れているのかもしれない。教えてくれ、その方法を。


 そうして奏多は、比喩ではなく現実の手を伸ばして、茉莉を体育館裏まで連れて来たのだった。


「私も、どうしておじさんが私に魔法をかけたのか知りたい。あの日の真実を、抜け落ちてる記憶を、取り戻したい」


 奏多は自分の魔力を消して、魔法使いではない一般人になりたい。

 茉莉は、あの日の真実、そしておじさんの正体を知りたい。


 二人の望みを叶える鍵は――全ておじさんの手の中にある。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る