最後の男
たもの助
最後の男
「約100年間続いた歴史において、沢山の事柄が有りましたが、本日2/12を持ちまして、製造が完全に断たれる運びになりました。」
かつて需要のあった元便利な物たちは、次々と廃止に、和式の水洗トイレに至っては廃止から30年経ち、博物館に展示される程度が実在する限りとなっていた。
そして、ここに来て新たな廃止令が出ていた。
幼少期の頃からそれを身に付けていたオレにとって、その日は完全に廃止された極刑を身に味わい、と同時に最後に手に入れた数十セットのそれを眺めながら少しの安堵を感じた。
それからというもの、オレはいついかなる時にでもそれを身につけて街へ出た。
誰にも気付かれる事はないが、オレにとってそれは小気味良く、身に付けている事が誇らしく、唯一無二の存在だと思えさえもした。
勿論時にはライバル、戦友と出会う事もあった。
大体が同年代、もしくは老い先の短い紳士達が身に付けているのを目撃した。
だが彼らのそれは既に弱々しく、少しの振動でさえも彼らの元から離れようとするのは見にみえて明らかだった。
それに比べオレは、予め数で勝る事を考えていた為、常に同志は調子良く、オレのことを掴み続けていた。
時には弱々しくなり、別れを告げなければいけない同志達には手厚く葬り、一枚、一枚と確実に終わりに向かう為、歩いていった日常であった。
徐々に減っていく相棒と足並みをそろえる様に、ワタシも月日を過ごし、既に身体も自由が効かないほどに年老いていた。
ここ何年かは好きな散歩でさえも相棒の事を思い、なるべく家に居る様になり、それが逆に老体のワタシをドンドンと追い込んでいった。
そして
最後の一枚。
最後の相棒。
ここまでワタシの身体を支えてきた相棒に、ワタシはいつしか目頭を熱くしていた。
身に付けた純白の相棒はずっと変わらないでいた男の体型をがっしりと掴み上げていた。それはまるで幼女が大好きな父の帰りを待ち侘びたかの様に、離さず、ギュッと握り締めていた。
ワタシは何を思ったか、それから数ヶ月間、散歩を繰り返した。
力を振り絞り、一歩一歩、相棒と地面を踏み締め、これまでの人生を思い返していた。
相棒のお陰でここまで来れた。
ワタシは、コレを愛す事で人生は満たされた。
第一発見者は運良く村の職員であった。
男は上半身裸で、下半身には寄り添うかの様な相棒を見事に履いていた。
職員は最初亡骸を見たことにより驚愕し、その後、2度、驚愕した。
職員は市へ報告し、市は県へ。
県は国へと瞬く間にそれは国宝へと変わっていった。
最後の男の布切れは、今では博物館の
和式水洗トイレの横に飾ってある。
黄ばんだ笑顔を見せながら。
最後の男 たもの助 @tamonousuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます