第10話 五大公爵家の興亡


ほんの短い間だったと思う。私はエドワードの胸から離れた。そう、私はやらなければならないことがある。


「この宮殿を壊させはしない。今度は私があなたを守る。ほんの少し待ってて。私たちが落ちた穴にロープを下ろすわ」


エドワードはエドワードだった。綺麗きれいな瞳で私を見つめ、微笑んでいた。


私は走った。通路を抜けるとらせん階段があった。私は登って行く。石積みの壁に沿って幾度となく回ると出口があった。私は飛びこむように出口を抜けた。


どうやらここは城の一室。


四人の貴族が私を待っていた。一人は私の姿を見るなり涙ぐみ、私の前までやって来てひざまずいた。


「陛下。一目で分かり申した。不覚にも我が姉が生きていたかと思ってしまいました」


叔父のドーソン公だろう。そして、エドワードの御父上。顔立ちと雰囲気ですぐに分かった。


「御帰還。執着至極しゅうちゃくしごく


ひざまずき、私の手にキスをした。他の貴族たちも次々と私の手に口づけをし、挨拶した。ルドベキアのほこる五大公爵の、カムデン以外四人がここに集まっている。


フレーザー公が言った。


「カムデン邸ではすでにいくさが始まっております。我ら四家にて王都の守りを固め、市民には危害がおよばぬよう街路に兵を配し、王墓の森にも警護と称して兵を五百人ほど入れておりまする」


「諸侯の子息子女は我らの手の内にあるも同然」

「諸侯が味方出来ないカムデンは時間の問題でしょうな。いずれ陛下の御前に差し出ましょう。我ら、生きて捕らえる所存」


ドーソン公が言った。


「王殺しに王権簒奪おうけんさんだつ。やつにはそれに見合った罰をうけてもらわなくてはならぬ」


フレーザー公は私をテラスにいざなった。王都ガイガルディアが一望できた。カムデン邸は赤々と燃え、町すじや城壁はたいまつのあかりで満たされていた。


王都の遠く向こう、王墓の森は多くの兵が持つたいまつで、闇に浮かぶように黄金色にきらめいていた。






               《 了 》

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追放された私を溺愛するスパダリ、私の知らない間に全方位、盛大にざまぁを仕掛ける 悟房 勢 @so6itscd

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