枕投げ

「ふぅ~めっちゃいい風呂だったぜ!」


 貞治さだはるの声が朗々と響く。入浴後なので、そりゃ無理のない話だなと思う。


「そうだね。心も落ち着くし、体も回復するし」


 優しい声で皇広みひろが言う。いつにも増して穏やかに喋っているのが、温泉の効果を物語る。


「オレのイケメン度にも磨きがかかったしな」


 ねっとりと帝一ていいちの声がする。温泉の温度と共に、コイツもテンションが上がったのだろう。


「さて、俺らこの後何をしようかねえ」


 そう言ったのは公彦きみひこ。どこからどう見ても「兄貴」と呼べそうな声だ。


 そして。


「な、君直よしなお


「あ、ああ」


 君直、と呼ばれた男。それが私である。




*************************************




 私達は中学3年生の春、学校生活最大のハイライト、修学旅行に出かけていた。


 舞台は東京・横浜・千葉・埼玉。3泊4日の大冒険だ。


 その最中を、私達5人組は楽しんでいた。




 「兄貴」と呼べそうな声の持ち主である公彦は、その声の通り5人組のリーダー格。いつも5人組を上手くまとめてくれている、いじめと差別を嫌う正義漢だ。だが、所謂いわゆる『悪い遊び』にも興味を持つなど、中学3年生にしては成長しすぎている感が否めない。背は平均より少し高い程度だが。


 ねっとりとした声の持ち主である帝一は、典型的なナルシスト。自分は女にモテる、などといつも抜かしてはいるが、それで本当にモテるのだ。なぜなら、彼の容姿とコミュ力は女を口説く為に十分、基準を満たしているから。そして、なぜか女よりも私達との友情を重んじているから。あと、5人組の中で背が最も高いから。


 先程「めっちゃいい風呂」と言っていた貞治は、5人組のムードメーカー。とにかく明るく、声が甲高い。これがアニメならCV.森久保祥太郎が似合うのではと思うくらいのキャラだ。コイツの話には下ネタが1日1回は飛び出し、成績も私達の中で最低だが、運動神経は箆棒べらぼうに高く、また小動物にも優しい。


 優しく穏やかな声の皇広は、その声の通り非常に控えめ。5人組の『臆病枠』と言っても過言ではないレベルで臆病であり、引っ込み思案である。小学時代はいじめられっ子だったらしいが、公彦の優しさに触れて5人組に入ったとの事。そして5人組の中で背が最も低い。


 その4人に私、君直を加えた5人が、いつも共に行動するメンバーという訳である。




 この日は2泊目、千葉県君津市の温泉宿に泊まる事になっており、既に夕食と大浴場入浴を済ませて部屋に戻り就寝準備をする所だった。


「しっかし埼玉の鉄博行ってどうだったんだよ?ああいう所行って満足すんのは『シンカリオン』見てた奴ぐれえだろ」貞治が唐突に愚痴をこぼした。「やっぱ埼玉って何にも無えのな」


「それは言っちゃいけないやつだぞ」咎めたのは帝一。「オレと同じイケメンが折角埼玉の事を広めようとしてくれたんだ、少しは埼玉に愛着を持て。それに」


「それに何だよ」


「少なくともオレは満足したぞ。何せ『シンカリオン』の聖地だからな」


「おあっ……」


 貞治の顔が『吐きそう』のそれに見えた。


 実は帝一は隠れオタクで、アニメの事には意外と詳しい。『今期の派遣アニメ』の話題には敏感で、そうでないアニメの事も良く知っている。他のメンバーはこの事を知っているのだが、これをよくあげつらう者が1人。


「お前『シンカリオン』見てたのか?どうせ鉄オタだから見てたんだろ?そんな低民度界隈にいたのかうーわきっしょ」


「お前……」帝一のこめかみがビートを刻む。


「はいそこまで」そこに公彦の声が入った。「喧嘩は地元で。こんな所で喧嘩して見られでもしたら学校の恥晒しじゃないか」


「「うぐっ……」」二人が呻く。


「そうだよ」皇広の声が少々震えていた。「騒いで先生に見つかったらどうすんの」


「「それはっ……」」


「喧嘩をしよう或いは止めようとしてるとこ悪いが」私が口を挟んだ。「もう着いたぞ」




*************************************




「なあ、枕投げやろうぜ」


 部屋に入ってから3分後に、貞治が口を開いた。


「先生に怒られないのか?」


 我らがリーダーが問う。


「いやいや、先生方も分かってると思うぜ?これが『修学旅行の醍醐味』だからよぉ」


「それはそうだが……」


「オレも枕投げには賛成だ」次に帝一が口を開く。「オレを低民度って言った奴に枕をぶつけたくて仕方がない」


「僕は反対だからね」皇広の怯え声が響く。「『先生』って立場になった以上、枕投げに対する処遇は厳しいと思う……」


「皇広の奴、ビビってや~んの」貞治が煽る。「それだけ先生のお怒りが怖えのか?」


「そ、そうだよ!それに、テレビに当たりでもしたらどうすんの!」


「まあ確かにテレビに当たって破損して、それで弁償にでもなったら嫌だな」公彦が言う。


「そうかよ……いや待てよ」


 肩を落としかけた貞治が突然手を叩く。


「な~んだ、この部屋でも枕投げ出来るじゃねえか!」




*************************************




 私達が泊まる部屋は、1つの客室に部屋が2つあるというものだった。そのうち1つにテレビがあるが、もう片方には無い。




 貞治が手を叩いたのは、その事を思い出したから。




 テレビの無い部屋で、枕投げをすればいい、という事だ。




*************************************




「――てな訳で、ビビりはテレビの部屋で寝ときゃいい」


「……知らないからね。汗びっしょりでも、先生に怒られても」


 そう言うと、皇広は歯を磨きに洗面台へ向かった。


「……で、お前はやんのかよ」


 皇広を見送ると、貞治は私に顔を向けた。


「……ああ」


 ……まあ、人生に何があるか分からない以上は、ここらで楽しんでおくのも悪手ではないかもな。


「やろう」


「そうこなくっちゃな」


 貞治が舌を出した。




*************************************




「『フレイム・バレット』ォ!」


「うおっと!」


 何やら技名を言いながら帝一が投げた枕を、貞治が避ける。


 その隙を、私は見逃さない。


「背中ががら空きだぞ」


「ぬあっ」


 私の投げた枕が、貞治の背中に命中。


「ぐはあっ」


 明らかに演技だと分かる声を出して倒れる貞治。それを見るのに夢中で、私は背後を知らなかった。


「お前も同じ事してるじゃないか」


「?」


 直後、私の背中に柔らかい感覚。


「なにっ」


「フン」枕を投げたのは公彦だった。「『敵を倒す事よりも自分が食らわない事』。それを気を付けておくんだな……こんな風にな!」


 瞬間、公彦の背から枕が出てきた。体を翻し、両手でそれを投げる。


 枕は背後にいた脅威――帝一の腹にクリーンヒットした。


「どわっ!」


 帝一が後ろに倒れ尻餅をつく。


「くそ……っ、オレの、『バーニング・トルネード』を……オレから獲物を奪うだけじゃ飽き足らず!」


「なっはっは、回転なんて無駄にかけてるから遅いんだよ……それにしてもお前、妙に技名つけたがるな」


「黙れ!」帝一の顔はそれほど怒りを含んでいない。「お前こそ、回転をかけた枕を上手くキャッチする腕前は認めるが――」


「隙ありぃ!」声と共に、上から帝一目掛けて急降下する影。他でもない、枕だ。そのまま帝一の顔にクリーンヒットする。


「へへーん、やったぜ!」


「貴様ァ……このオレの顔に傷をつけるか!」


「お前そんな中二病だったっけ?」


「それ俺も思った」


 顔を見合わせる貞治と公彦。だが、それを見逃す訳にもいかない。


「てぇりゃあっ!」


 真っ直ぐに枕を投げる。空気抵抗もあまりかからぬように。


 だが――その枕は左手だけで軽々と掴まれてしまった。


「「!?」」


 しかし、その勢いに耐えきれず公彦はよろける。


「ほっ……」


 私は公彦に対する攻撃チャンスを確信した……ところが。


「これ狙ってたのなら『無意味』としか言いようがない……だがこっちは逆に攻撃チャンスを得たぞっ!」


 そういって枕を投げ――ず。


 そのまま横にいた貞治に枕を叩きつけた。


「どわあっ」


「味方と思って油断してると手痛い裏切りに遭うぞ」


「……テメェやりやがったなぁ!」


 すぐさま枕を拾った貞治が直線軌道にそれを投げる。だがそれは公彦が掴むには十分その手に近かった。


「遅いねぇ」


 同時に帝一も攻撃態勢に入っていた。


「……そちらに気を取られていたようだが、それがお前の敗因だぁ!」一瞬を、帝一は見逃さなかった。「食らえ、『ブラックホール・カリバー』ァァァァァァァァァ!!」


 中二病の極みとも呼べる技名と共に枕が飛翔を始める。だが。


「やっぱ中二病じゃないか」


 その枕を、公彦は掴んだ枕で弾いた。


「なにぃっ!?」


「そんなに技名を叫んでばかりだから予測が簡単すぎるんだ」


 公彦はすぐさま弾いた枕を掴むと、右手と左手、両方の枕を同時に投げ飛ばした。


 一つは帝一へ。もう一つは――貞治に枕を投げようとしていた私に。


「ぐわっ!」「でっ……」


「どうだ、これがリーダーの実力だ」公彦が勝ち誇る。


「こんなにも強かったのかよ公彦……」貞治が口を広げて呆然としていた。「お前ら」


 この「お前ら」が指すのは帝一と私以外に他ならなかった。


「俺達3人で誰が一番早く公彦に枕をクリーンヒットさせられるか勝負しようぜ。勝ったら公彦の金で何か買い食いする権利を得るって事で」


「成程な。1人では無理でも、3人で向かえば勝てる、って事か」帝一が顔を澄ます。


「それは名案だよ貞治」私も続けて口を入れる。「それで行こう、それで」


「そうだな……」帝一は承諾した……筈が。「だが」


 私の脳に疑問符の行列。同じ事が、貞治の脳内でも発生しただろう。そしてその行列にグレネードを投げ込むように、帝一が無慈悲な一言を放った。


「生憎オレにはお前に対する恨みがあるんでね」




*************************************




 帝一が中二病的技名を唱えながら枕を公彦に投げる。その枕を必死で私が弾く。弾かれた枕を公彦が掴んでは帝一と貞治のいずれかに投げる。見事にクリーンヒットしたその枕が当てられた者の武器となり、またループへと誘われる。


 そんな応酬が10分続いた時、は現れた。




 突然、部屋が暗くなった。


「ううぉい!」最初に感嘆符をセリフに付けたのは貞治だった。「急に部屋が暗くなりやがった!」


「これじゃあ何も見えんし枕をぶつけられない……ッ!」次に帝一がジョジョ風に喋った。「勝利よりもオレの顔、勝利よりもオレの顔……」


「これどうなってるか見て来いよ君直」公彦が私に言いつける。


「わ、分かった」




 承諾した私は部屋の襖を開けた。そしてが4人の目にありありと映った。


「うおおおおおいなんじゃあこりゃあああああ!」


 貞治の叫び。




 そこには有り得ない者が顕現していた。


 頭部の左右から髪が生えているが、頭頂部は禿げている。だがそこに矢が数本刺さっており、それが失われた髪の代わりにその頭を埋めていた。


 これが……イメージとは違うが……所謂『落ち武者』ってやつか……。


「呪殺……アレ……。呪……殺……アレ……」


「オイオイオイオイオイ」貞治が声を震わせる。「めっちゃやべえやつじゃねえのコレ」


「こんな奴ホントにいたのか……」帝一の声も中々に震えていた。


「うろたえるなお前ら」これも震えを少し含んでいたが、公彦が2人に呼びかける。「こういう奴は大体『何か投げつければ痛がる』もんだ」


「成程な」「そうじゃん」


「よし、そうと決まれば」私も加勢を決めた。「私がコイツを引き付けておくから、帝一と貞治は枕を拾って公彦に渡せ。あとは公彦が上手く投げつけてくれる」


「くそっ、まさか公彦の腕に頼るなんてな」「仕方がないさ、修学旅行の最中に呪殺なんてされたら大迷惑以外の何物でもない」


「そうと決まりゃな」公彦が鬨の声を放つ。「行くぞお前ら」




*************************************




 3人にぶつからぬよう、落ち武者霊の刀を避ける。


「呪殺アレ!」


 おどろおどろしい声をあげ、落ち武者霊が刀を振り追ってくる。これは皇広が絶対に泣きそうだ。


「悪いが、大人数の旅行中に死んだら皆が悲しむんだ」必死で刀を避け、落ち武者霊に言葉を投げかける。「ここでお前に呪殺される訳にはいかない」


 その時、枕がこちらの胴体にぶつかった。


「どわっ」


「グファッ!?」


 落ち武者霊が後ろを振り返る。


「まるでダメージが無いが、投げつけりゃ少しは反応してくれるじゃないか」そこに公彦がいた。声がそう示す。「だがそれだけかよ、おい」


「グヌヌッ……」落ち武者霊が忌々しそうに唸る。


「そっちには行かせない……っ」私は落ち武者霊の頭を殴った。当然、拳はその像をすり抜ける。ダメージは無い……筈が。


「ブオウ……」脳震盪に十分の威力だったのか、落ち武者霊が呻く。「マ、マズハ……キサマダ……!」


 落ち武者霊の刀が振り下ろされる。


 私は避けた。……が。


「だっ……!」


 勢いを誤り、尻餅をついてしまった。


「呪殺……アレ……!」


 目の前に、落ち武者霊が立っていた。刀を振りかぶり、呪殺のスタンバイをしている。「モノ……ブツカレバ……キサマ……死ヌ……!キサマ……ダケデモ!」


 もはや準備万端だった。


「逃げろおおおおおおおおおおお!」公彦の声が聞こえる。だが私が逃げ切れるとは思えなかった。


 私は目を瞑った。




 閉じていた襖が、突如開いた。


「テメェ……」


 そこにいたのは、襖が閉じていた理由――この中で最も弱くて臆病の筈の、皇広だった。だが、いつもの皇広から雰囲気が180度回転していた。


「僕の友達に手ぇ出したら……どうなるか分かってんよなあ!」


「「「「皇広……!?」」」」


 4人全員、口を開けていた。雰囲気の力が、口を閉じさせなかった。


「悪霊……退散ッ!!」


 言葉と共に、第5の枕がこちら目掛けて、落ち武者霊目掛けて飛翔した。


 直後。


「ブウォァ!?!?」


 枕が落ち武者霊に到達した瞬間、落ち武者霊の叫びと共に眩しい閃光が部屋を覆った。




 次に目を開いた時には、落ち武者霊は跡形も無く消えていた。




「お……お前……」


「そんな……」「キャラだった……っけか……?」


 3人が言葉を絞り出すのもやっとのようだった。


「……」


 私に至っては、言葉を絞り出すのも暫く出来なかった。


「……ん?」


 皇広は何事も無かったかのように私達4人を見ていた。そして言った。


「そろそろ寝たら?今の疲れが明日に響いたら困るでしょ」


「い、いやいや……」公彦が再び声を絞り出す。「それにしてもお前……今の、どうやった、んだ……?」


「……ん?」皇広は普通と変わらない様子だった。「それより皆、顔色悪いよ?ホントに寝た方がいいって」


 私は思わず視点を下に向けた。


 私の足の上の枕に、五芒星の書かれた紙が、セロハンテープで留められているのが見えた。




*************************************




 それから、修学旅行は何事も無く進行し、普通と変わらぬ終わりを迎えた。幸いにも枕投げは教師陣にバレていなかった。


 しかし中学卒業後、私達は疎遠になってしまった。


 気づけば、私は27歳になっていた。母校の中学校の教師をしながら、超常現象を真面目に研究する機関で仕事をしている。




*************************************




 ある日、私は仕事で探偵組織『アネモイ』のメンバーと一緒に仕事をする事になった。そこで出会った『アネモイ』メンバーは、金と銀が入り混じった赤い瞳の男。どう見ても吸血鬼を思い起こさずにはいられないが、どことなく見覚えのあるような顔立ちだった。だがに気づく前に、向こうから正体を教えてくれた。


「お前……もしかして君直か?」


「……お、お前……」


 そこで確信した。


 このどう見ても吸血鬼のようにしか見えない男が、あの公彦だという事を。




 この日の仕事は『次元の扉』から現れて人を襲うという『怪異』の調査だった。


 調査場所に向かう途中、私と公彦は中学卒業後の色々を話し合った。帝一が所謂『神絵師』になった事、貞治が東大に入学した事、公彦がドンキのバイトを始めた事、私の教え子達の事。そして、皇広が最近、音信不通になっている事。


 どれだけ探しても皇広は見つからなかったとの事だった。


 皇広の途轍もない優しさは私達もよく知っている。皇広は犯罪をやらかすよりは巻き込まれそうな人物だという事も。殺されてしまったかもしれない、と公彦は言っていたが、私はどこかで皇広が生きている気がしてならなかった。




 調査場所に着くと、公彦はすぐさま寝袋を用意した。彼曰く、戦いになりでもしたら大きな疲れの素だという。大きな疲れは彼をすぐ睡眠に誘ってしまう為、戦いが予想されればこのように寝床を準備するらしい。


 寝床の準備が終わると、私達は『次元の扉』の地点まで歩いた。ここからが本番だ。


 私達は『怪異』の出現推定時間である22時まで待った。しかし、『怪異』はおろか『次元の扉』さえも現れなかった。


 私達を警戒しているのかもしれない、という事になり、それぞれの職場に一報を入れる。そして帰ろうとした、その時だった。




 私の背中が、かつて経験したことの無いレベルの衝撃に襲われた。


 私は態勢を崩し、二転三転してしまった。


「君直!」


 私を呼ぶ公彦の声が聞こえる。しかし、「それどころではない」と言うかのように、その声はうっすらとしか聞こえない。


 痛みを堪えて体を起こす。公彦の方を見ると、人間の背丈ぐらいはあろうかというキツネと思しき獣が、公彦を追いかけていた。


 公彦は逆手にナイフを持ち、キツネの方を何回か振り向く。


 私は気付いた。今のキツネは私達が狙っていた『怪異』だ。




 そうこうしているうちに、公彦が体当たりを食らってしまった。公彦の体が横に転がる。ネイマールのようだ、と呑気に言える状況じゃない。


 なぜなら――キツネが私の目の前に跳び上がっていたのだから。




 私は死を確信した。目を瞑る。心なしかデジャヴを感じた。




 何者かの叫び声が耳に響く。




 私は死んでいない。それが、その叫び声の後に私が思った最初の事だった。その次に、今の叫び声はキツネのものなのだな、という事。


 目を開けると、キツネの化け物は倒れていた。体に。今にも消えそうだという事が目に見えるキツネの化け物が、その最後をもがいていた。


「まったく、二人とも何やってんの。少なくとも僕の方が成長してると思うんだけど」


 ふと声が聞こえた。位置的に、公彦にも聞こえた。


 それはあの声に似た、穏やかで優しい声だった。


「おい、お前それ失礼なんじゃねえのか……って」


 公彦が絶句するのが見えた。私は声の来た方向を向く。




 そこにいたのは真っ白な和装の青年だった。腰に札を何枚も携えている。顔は凛としているが優しく、鋭利さを持ちながら穏やか。満月の下が一番似合う。そんな雰囲気を醸し出す青年。


 他の人が見ていたら、凛とした鋭利さが優しさと穏やかさを越していただろう。


 しかし、私がよく見ると、優しさと穏やかさが凛とした鋭利さを越してしまう。


 そしてその青年は言った。


「そっちの金銀ヘアーは公彦君だよね、そしてこっちのクール系キャラは君直君か」


「おいおいおい、お前……まさか」


 私達は暫く声を出せなかった。数秒の後、ようやく二人とも声を出せた。


「「……皇広なのか?」」


「そっ。君達二人、それに帝一君や貞治君と一緒に中学生活を楽しんでた、松坂まつざか 皇広みひろだよ」




*************************************



 どうも、反七夕のプリンスです。




 これはある日僕が寝る前に『枕』から思いついた短編です。


 枕投げって、やるやらないで人の性格が分かるんですよ。その人がやるやらないの時点で嘘をつかない限り。


 こういうのを、『臆病枠が実はメチャクチャ実力者だったら?』って感じの話に盛り込めました。


 よくこういうのを短時間で思いついたな僕(ナルシスト注意)。




 しかし、長編小説執筆の予定が未だに立たない。スニーカー大賞の選考終わるまで『マルチジャンル・ロワイヤル』は執筆再開できんし。




 今後どうしようかな。

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日常から思いついた短編集「WANDERING WONDER」 反七夕のプリンス @Dio_Siobana

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