男爵家令嬢レアは、母と同様貴族の価値ある所有物となるべく美を磨かれてきた。しかしてモラリアム伯爵家の次男へ嫁ぐ——その所有物となることが決まったのだが。式の直前、彼は失踪。されど政略結婚を壊さぬため伯爵家末子ニコラに取り入るよう命じられる。すべてを諦めきっていた彼女はそれに従い、そして。妖艶なる調香師ファビアンと出逢う。
所有物としての人生を強いられた貴族令嬢。その諦念の深さにまず目を奪われました。そしてそれがあるからこそ、ファビアンという人物との出逢いが鮮烈で、一気に引き込まれるのですよね。
産業時代の西欧をモチーフにした、エネルギッシュでありながらなんともくすんだ世界観もそうなのですが、描写が実に濃やかでかぐわしいのです。物語を大きく覆しながらも約束された結末へと至るストーリーラインへはもう、浸り込まされずにはいられません。
人と香りとが合わされて匂い立つ極上の悲喜劇、心ゆくまでドラマを味わいたい方に。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)