第1章40話 岩の巨人
ティヴァとオオミズチを押しつぶした岩塊はよく見ると大剣を模したような形をしており、さらにそれを岩の巨人が振るっている。
大きさはオオミズチと同じくらいの背丈で大人の三倍ほどの背丈がある。
突如として発生した異常事態に魔獣たちはあちこちで咆哮をあげ、巨人に向かって攻撃を仕掛ける。しかし、岩が少し削られる以上の損害を与えられないまま巨人が一歩踏み出すだけで、果敢な魔獣たちは瞬く間に残骸へと変貌する。
勝ち目を見いだせない魔獣が、攻撃の手を止めるまでに時間はかからなかった。
「ああ、ああああぁぁぁああっ!」
その絶叫は、頭を潰されたオオミズチの死体の傍らに立つ少女から放たれた。
「リベリオおぉぉ、死ねえぇぇぇぇ!」
「リベリオ!?」
予想外の名前に驚愕を隠せないテル。巨人の方をみると、ちらりとこちらを窺うような素振りをした。
ティヴァが巨人に手を掲げると、そこからオニミズチを上回る大きさのナメクジのような軟体の魔獣が繰り出された。いったいどこにそんな巨大な魔獣をしまっていいたのかと、目を疑ってしまう。
ナメクジは粘度の高い液体を滴らせながら巨人に纏わりついた。
巨人より大きな体で押しつぶされてしまうようにも思えたが、巨人は難なく引きはがすと、掴んだナメクジをそのまま地面に叩きつけた。
そのまま大剣で両断されるかと思われたが、巨人は追撃をしなかった。ナメクジは拘束を解かれ、巨人から距離を置く。
ナメクジを掴んでいた巨人の手が溶けて、原型が残っていない。おそらくナメクジの体液は強力な酸だったのだろう。よく見てみれば、足元の森は紫色になって溶けている。
しかし、巨人は一度攻撃の手を止めてから、躊躇うことはなかった。巨人は粘液塗れの自分の腕を大剣で切り落とすと、すぐに新しい手を岩で作り出して元通りになった。
巨人はナメクジの核を一気に破壊するために大剣を構えるが、振るわないまま後ろにバランスを崩した。
今度はタコのような触手が巨人の腕や首に絡みついて動きを妨害している。触手は吸盤がありタコのようであるが、その触手は巨人と同じくらいの大きさの獅子の
鬣の代わりに蛸足を頭の周りに生やした、まさしくキメラといった恐ろしい姿をしている魔獣は巨人に飛びついた。
巨人がキメラに手間取っているあいだに、ナメクジは体勢を立て直し、蛸足獅子もろとも溶かしつくしてしまわんとにじり寄っている。
巨人は巻きついた蛸足をがっしりと握り、背負い投げた。蛸足獅子はナメクジの頭上に叩きつけられ、悲鳴を上げる。
巨人は大剣を掲げると、もつれあう二体を纏めて一刀両断にした。
血しぶきを上げる蛸足獅子は、徐々に表情から力が抜けてやがて灰の山になった。しかしナメクジはそうはならない。体を真っ二つにしてもまだ体の崩壊に至るまでの損傷ではなかったのだ。
ナメクジの切り離された上半身は、一体どこから出しているかわからない耳障りな奇声を上げて、キメラの灰と自分の下半身を丸ごと飲み込んだ。
ナメクジはみるみる巨大化していく。その大きさは明らかに取り込んだもの以上に質量を手にしている。
キメラのものだったであろう四肢は、どこで取り込んだかわからない複数の得体の知らない生き物の頭部が継ぎ接ぎのように生えており、全てに意思があるように唸り声をあげている。
タコの触手はナメクジの粘液を手にし、見境なく溶解液を振り撒いている。白目を向いた獅子の口からはナメクジの頭部が覗いており、その形状はもはや冒涜的だ。
巨人に迫る触手を大剣で防ぐ。しかし質量も手数も増した攻撃で大剣は目に見えて消耗してくと、なにを考えたのか巨人は大剣を冒涜的な合成魔獣に投げつけた。
さきほどのナメクジであれば圧死していたかもしれないが、いまの融合魔獣にはそれほど有効打ではなく、少し体勢を崩しただけで、すぐさま巨人に向き直った。
「『義腕接続』」
巨人から発せられた音声は、聞き覚えのある声だった。さほど大きな音ではなかったのに空気が揺れたのは、周囲の魔力が巨人を中心に渦巻いているからだ。
なにかがくる。そう感じたのはテルだけではない。
急かされるように合成魔獣が巨人に仕掛けた。蛸足をまとめ上げたものを眼前に作り出すと、ドリルのように回転させて巨人の胴体を貫こうと飛び掛かった。
「『
渦巻いた魔力が収縮すると、大地が隆起して合成魔獣を中心に岩石の花が咲く。
巨人に飛び掛かる合成魔獣の前には岩石の花弁が立ち塞がり、邪魔されて憤った魔獣はそのまま唸り声をあげるが、自分の陥っている状況に気づき勢いが消滅した。
四方から迫る岩石の壁は徐々に狭まって、合成魔獣の逃げ道を塞いだかと思うとそのまま覆い隠し、魔獣を上回る岩の質量で圧死させた。
魔獣の断末魔が終わり、魔法が解かれると岩の花も巨大魔獣もすべてなくなり残ったのは大量の灰だけだった。
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