第10話
ルイスはわざと目立つように正門から出ると、歩いてシュトーリヒ伯爵の屋敷から離れていく。
門のあたりには、まだ麻痺から回復していない兵士たちが転がっていた。
ルイスはしばらく大通りを歩いていたが、屋敷が見えなくなったところで裏路地へと入る。
そこからは、一気に走り出した。
裏路地を縫うように走って、街外れまでやってくる。
そこには、一台の馬車が停車していた。
二頭立ての大きな馬車で、荷台には幌が付いている。
「パウロ、待たせたな」
ルイスがそう言うと、御者台からひょこりと少年が顔を出す。
「兄ちゃん! 姉ちゃんは?」
「ああ任せろ。大丈夫だ。さあ、姉ちゃんを迎えに行こう」
ルイスは御者台に飛び乗ると、パウロの隣に座った。
手綱をひくと、馬車はゆっくりと動き出す。
「なあ、姉ちゃんは、どこにいるんだ?」
「そう慌てんなパウロ。すぐに会える」
ルイスは、そのままゆっくりと馬車を進める。
そろそろ現れるはずだ。
ふいに少し先の建物の影からティトが姿を現した。
「よぉ、ティト。おつかれさん」
「兄さんこそ、ありがとうございました」
軽く言葉を交わし、ルイスは馬車を止めた。
「さあ、皆さん。急いで馬車の中へ」
ティトは後ろを振り返ると、少女たちに声をかける。
路地に隠れていた6人の少女は、一斉に出て来ると我先にと馬車の幌の中へと入っていった。
「パウロ!?」
「姉ちゃん」
ただ一人、セリナだけが御者台に座るパウロに気付いて足を止める。
パウロは御者台から飛び降りると、セリナに駈け寄った。
「パウロ!!」
セリナはもう一度、弟の名を呼ぶと、駆け寄ってくるパウロを抱きしめた。
セリナの頬を涙が
「姉ちゃん。苦しい」
「あら、ごめんなさい」
セリナはパウロを抱きしめていた手を緩めた。
ふと、パウロの顔を見ると、まだ生々しい傷が残っているのに気付く。
「パウロ。こんなに怪我して。ごめんね。私のせいで」
セリナは、傷を気遣うようにそっとパウロの傷に触れる。
「これくらい、へっちゃらだよ。それよりも、おれも姉ちゃんを守れなくて……」
パウロは悔しそうな顔をする。
「ありがとう。パウロ」
セリナは愛おしそうに、優しくパウロの頭を撫でた。
「すまない。そろそろ出ないと」
「あっ、ごめんなさい」
セリナはそう言うと、急いで馬車の荷台へと乗り込んだ。パウロもそれに続く。
「中にある服は好きに使ってください。たいしたものはありませんが、食べ物もあります。お腹が減っているなら好きなだけ食べてください」
そう言って、ティトは荷台の幌を閉めた。
服や食べ物は逃走用に
「さあ、行くか」
ルイスが御者台に登ると、ティトがその隣に座る。
手綱をとると馬車は再び走り出した。
強行突破も辞さないつもりで、街の外へと続く門に向かったが、心配は杞憂だった。
特に幌の中を調べられることなく街の外へと進む。
「意外なほどあっけなく出られたな」
「はい。ラッキーでしたね」
もう既に門が見えないくらいまで離れている。
「大丈夫だと思うが、念のため追手が来ないか見張ってくれるか?」
「はい!」
ティトは頷くと、軽い身のこなしで幌の上に登る。
そこで、後ろ向きに
ティトは、
どうやら、追っ手はいないようだった。
ティトが幌の上に行くと、代わりにパウロが御者台に来てルイスの隣に座る。
「兄ちゃん。ほんとに姉ちゃんを助けてくれるなんて。ありがとな」
「なっ。だから言っただろ。俺たちが取り返すって」
「うん!」
パウロは満面の笑みを浮かべると、
「なあ、兄ちゃん。おれ、おおきくなったら兄ちゃんみたいに、かいとうナバーロになる!」
嬉しそうにそう言った。
「お、『怪盗ナバーロ』覚えてくれたのか?」
「うん!」
ルイスも顔を綻ばせる。
そして、少し真面目そうな顔をするとパウロの目をしっかりと見据える。
「でもな、パウロ。怪盗はやめておけよ」
「えー、何でだよ?」
不満そうに頬を膨らませるパウロ。
ルイスはその頭に手を乗せると、くしゃくしゃと乱暴に撫でる。
「怪盗は、悪いことだからな! それより、パウロ。強くなれよ。姉ちゃんを守れるくらい。それだったら、俺も協力してやるよ」
「うん! 分かったよ。兄ちゃん。おれ、兄ちゃんみたいにつよくなるよ!!」
ルイスは満足そうに頷くと、もう一度パウロの頭を乱暴に撫でた。
(おわり)
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最後までお読み頂きありがとうございます。
ルイスとティトの活躍、如何でしたでしょうか?
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『貴族に虐げられてきた猫獣人の兄弟。怪盗になって、悪徳貴族たちを懲らしめちゃうかもしれません。【ツインズソウル 2(Immoral cats)】』
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こちらも読んで頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします!!
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