第7話

 鍵穴にそっと2本の鉄棒を差し込むと、慎重に動かした。

 やがて、カチリという小気味いい音がする。



 音のせいか扉の中の気配が動いた。



 ティトは、そっと扉をあける。

 扉の中は、ずいぶんと殺風景な部屋だった。

 小さな簡易的ベッドがいくつも並んでいるが、それ以外には家具と呼べるものは無さそうだ。


 そして、部屋の奥。

 扉から一番離れたところで、獣人の少女たちが固まって震えているのが目に入った。



 一番後ろにかくまわれているのはセリナだろう。

 金色の耳と、もふもふの尻尾が少女たちの間から見え隠れしている。

 セリナは泣いているのかもしれない。

 そちらからすすり泣く声が聞こえた。



 無理もない。

 いきなりさらわれたうえに、エイドリアンにあんなことをされたんだ。

 きっと怖くてしかたがないのだろう。


 ティトは、やるせない気持ちに奥歯を噛み締めた。



 セリナ以外には、5人の少女がいた。予想より多い。

 いや予想通りと言うべきか。


 もちろん全員が獣人だった。


 猫獣人みゃうの娘が二人。

 犬獣人シアンの娘が二人

 兎獣人レプスの娘が一人。

 そして、狐獣人ルナールのセリナ。全部で6人だ。



 ティトは彼女達を怖がらせないように両手をあげて一歩近づいた。


「きゃっ」

「こ……来ないで!」


 少女たちは、口々に怯えた声をあげる。


「怖がらないで。僕は君たちを助けに来たんだ」


 ティトは一旦立ち止まると、つとめて優しい声を出して少女たちに説明した。


 それでも少女たちはまだ警戒して震えている。


「困ったな」


 ティトは、眉根を寄せて、ぽりぽりと頬を掻いた。

 尻尾も心なしか元気なく垂れ下がってしまう。


「そうだ、セリナ。僕はパウロから頼まれてここに来たんだ。どうか話を聞いてくれないか?」

「パウロ?」


 セリナがおそるおそる顔をあげる。


「うん、君の弟のパウロだよ」

「パウロ……パウロは無事なんですか?」


 他の少女たちをかきわけて、セリナは慌てて前の方に出て来た。


「うん。無事だよ。ちょっと怪我はしているけど、大丈夫だ」

「よかった……」


 セリナは安心したようにその場に座り込んでしまう。


 他の少女たちも、今のやりとりを見て警戒を緩めたようだ。


「君たちを助けたい。僕と一緒に逃げてくれるかい?」


 ティトは少女たちに駈け寄ると、そう声をかけた。

 しかし、少女たちの顔色は冴えない。


「ありがとうございます。でも……」


 そう言い淀んだのは、猫獣人みゃうの一人だった。

 その猫耳少女は、困った顔をして、自分の首にはめられた鉄の首輪と、そこから伸びる鎖をティトに見せた。


 その鎖の先は、長く伸びて床に穿たれた杭のような物に繋がっていた。

 そして首輪には、頑丈そうな鍵がかけられていた。


 しかも、それは少女たち6人全員に付けられている。


「酷いことをする」


 ティトは眉間に皺を寄せると、怒りの滲んだ声でそう言った。

 そして、ピッキング道具を取りだすと、一番近くにいたセリナに向き合う。


「ちょっと失礼します」


 ティトはセリナの首輪をよく見ようと、覗き込んだ。

 だが、次の瞬間ティトは目を逸らしてしまう。



 セリナ、いや少女たちが身に纏っているものは、全員、例外もなく透けるような薄いものだった。

 首輪を見ようとすると、どうしても胸のあたりに目がいってしまう。


 そんなティトの反応を見て、セリナも顔を赤らめる。


「ごめんなさい。すぐ鍵をはずしますので」


 恥ずかしがっている場合ではない。

 こうしている間にも、ルイスが敵を引き付けてくれているのだ。


 ティトは出来るだけ胸を見ないように気をつけながら首輪を調べた。


「よかった。変な魔法などはかけられていないようですね」


 奴隷に付ける首輪の中には、強制的に服従させるための強い魔法がかけられているものもある。

 無理にはずそうとすると装着者に酷い苦痛を与えるものもある。


 だが、この首輪はそういうたぐいのものではなさそうだ。


「鍵、はずしますね」


 ティトは、鉄の棒を鍵穴へと差し入れた。いつもより苦戦したのは、セリナの艶めかしい肢体が目の前にあったからかもしれない。


 それでも、すぐにカチャリと音がして首輪がはずれる。


「えっ!? 取れた」


 セリナは目をまるくして、外された首輪に視線を落とす。


「きみ、すごいね」


 きらきらした視線をティトに向けるセリナに、ティトは懐から取りだしたナイフを差し出す。


「このナイフで、シーツを切って羽織ってください。その格好のまま逃げるのは……」


 ティトはセリナを直視しないように目を逸らしている。


「えっ、あっ。はい。そうだね。ありがとう」


 セリナは慌てて、片手で胸を隠すと、ティトからナイフを受け取った。


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