第6話

 ルイスが門の中に消えたのを確認するとティトも動き出した。



 騒ぎが大きくなり、屋敷の方からは兵士達のけんそう騒が聞こえてくる。

 ルイスが暴れているのだろう。



 ティトは屋敷の裏手へとまわった。

 屋敷を囲む塀を飛び越えると、敷地内へと侵入する。



 周囲に人の気配は無い。

 さすがはルイスと言うべきか。敵のほとんどを引き付けてくれているのだろう。


 ティトは難無なんなく屋敷の裏口から建物内へと侵入を果たした。




 ドゴォオオオオン!




 その時、上の方から大きな爆発音が聞こえてきて、屋敷全体が揺れる。


「兄さん、派手に暴れてますね」


 ティトはふっと口元を緩めた。


「こっちも頑張らなきゃですね」



 そこは厨房のようだった。いくつものかまどが設置されており、壁際には調理台や流しなども置かれている。

 逆の壁には、食材の保存用と思われる棚や箱が並んでいた。



 奥には料理人らしき男が二人。

 身を寄せ合うように近くに寄って、周囲を警戒しているようだ。

 先ほどの爆発音を気にしているのだろう。



 幸いティトにはまだ気づいていない。

 ティトは、物陰に隠れながら二人に近づいていく。


 近づきながら、懐から一本のナイフを取りだした。


 十分じゅうぶんに近づいたところで、ティトは一気に二人の前へと飛び出す。

 一瞬で、一人の背後に回り込むと、後ろから羽交い絞めにした。



 その男の首にナイフをつきつける。

 男の体が強張のが分かる。


「騒がないでください。僕の質問に答えて頂ければ、危害を加えるつもりはありません」


 そう言うと、男は強張った顔のまま、こくこくと小刻みに首を縦に振った。



「この屋敷に、獣人の少女たちが囚われているはずです。彼女たちがどこにいるか知っていますか?」


 ティトはわずかにナイフを持つ手に力を入れた。


「ひぃ! 知らん。命だけは、命だけは助けてくれ」


 ナイフを突きつけられている男は、震える声で答えた。


「あなたは?」


 ティトはもう一人の方に視線を向ける。


「地下室だ。獣人の娘たちなら地下に監禁されている」


 もう一人の男は、意外にもちょっと落ち着いた雰囲気で答えた。

 こちらの男は、髪に白い物が混じる壮年の男で、この落ち着きようは年齢のせいだろうか?


「地下室へは、どこから降りられますか?」

「そこから廊下に出て、左手にある扉だ。その扉の先が地下への階段になっている」



 壮年の男は、ティトの背後にある扉をあごしながら言った。

 ティトは背後を確認する。

 確かに廊下へと続いているようだ。


「ありがとうございます」


 ティトはナイフをしまうと、代わりにポケットから小瓶を一つ取り出した。


「申し訳ありませんが、お二人にはしばらく寝ていて頂きます」


 ティトは、羽交い絞めにしている男の顔に向かって、小瓶の上部を押す。

 プシュっとかすかな音がして、何かを噴きかけた。


 数秒で男の力が抜ける。

 ティトは、男が倒れないように支えながら丁寧に床に寝かせると、壮年の男にも同じようにプシュッと噴きかけた。


「しっかりやれよ……」


 壮年の男はかすかに微笑んでから、その場に座った。

 はっとして、ティトは頭を下げる。

 その時には、既に壮年の男は眠りに落ちていた。



 ティトは、男を丁寧に横たえると、その場を後にして廊下へと向かう。




 ティトが噴きかけたのは、強力な眠り薬だ。ティトが創ったもので、大型の動物でも吸い込めば数秒で眠りにつくほどの強力なものだ。




 廊下には、人の気配は無かった。

 ルイスが引き付けてくれているおかげだろう。


 廊下を出て左手にある扉にティトは取り付いた。

 ドアノブを回す。


 当然、鍵がかかっている。

 ティトは左手にはめたバングルの内側からピッキング道具を取り出した。


 いくつかある細い金属の棒。

 そこから2本を選ぶと鍵穴へと差し込んだ。

 ほんの数秒間、それを小刻みに動かしただけでカチリと音がした。


 そっとドアノブを回すと、扉が開く。

 ティトは急いで中に入ると後ろ手に扉を閉めた。


 扉の先は、すぐに階段になっていて、それは地下へと続いている。


 狭い階段には、古い魔石灯が一つだけ設置されており、それが頼りなくその階段を照らしている。


 半分降りたところで、階段は踊り場になっていて、そこで折り返してさらに下へと続いている。


 降りた先にはもう一つ扉があった。




 ティトは扉に耳をあて中の様子を伺う。

 中には、何人かの人の気配がして、かすかにすすり泣くような声が聞こえてくる。



 当りだ!



 ティトは確信すると、もう一度ピッキング道具を手に取った。

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