第4話

 ルイスとティトは、シュトーリヒ伯爵家にほど近い建物の影に身を隠し、伯爵家をうかがっていた。


 先ほどのティトの銃撃により、屋敷の中は少し騒ぎになっているようだが、まだ警備が強化されている気配は無い。




「それで、どうやって助け出しましょうか?」

「せっかく騒ぎになってんだ。もっと引っ掻き回してやろうぜ」


 ティトが聞くと、ルイスは意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「俺が正面から行って、騒ぎを大きくするから、おまえはその隙に、捕まっている娘たちを探せ」

「はい。分かりました」


 ティトの顔が引き締まる。


「最低でも、セリナ以外に3人はいるはずだ。できるだけ見落とすなよ」

「分かってます」


 今日まで、ルイスとティトは入念に聞き込みをしてきた。そして、闇の奴隷商にも潜入して、帳簿を調べてもいる。

 それらの調査から、エイドリアンが買った獣人の奴隷は3人ということは分かっていた。


 奴隷以外にも、セリナのように攫われた獣人もいるかもしれない。


「山の上から見た限りでは、セリナ以外奴隷は見当たらなかったよな?」

「はい。カーテンが引かれた部屋もあったので、確証はありませんが、それらしい部屋は見つけられませんでしたね」


 ルイスの質問に、ティトは思案するように眉を寄せてからそう答えた。


「そうなると、とらわれているのは地下の可能性が高いな。注意を上に引き付けてやるよ」

「ありがとうございます」

「でも、ティト。無理はするなよ。お前まで捕まっちまったら意味無いからな」

「はい! 気をつけます」


 ルイスの真剣な物言いに、ティトは居住まいを正して応えた。



「そうだ、ティト。ラミアの麻痺毒まひどくって余ってたりしないか? できれば分けてもらいたいんだが」


 ティトは腰のポーチを開けると中を確認した。


「まだ余ってます。2本あるので、1本は、使っちゃってください。1本で足りますか?」


 そう言って、小瓶を1本取りだすと、ルイスに渡した。


「ああ、十分だ。貰うぞ」


 ルイスは差し出された小瓶を受け取ると、投擲用とうてきようの小さなナイフを5本取りだした。

 柄も刃も黒く塗られた装飾も何もないシンプルなナイフだ。



 ルイスは、瓶の中の液体をナイフに垂らす。


 どろりとした粘り気の強い液体がナイフの表面を覆う。

 そして、そのナイフを革のベルトに差していった。



「これくらいあれば、足りるだろう。ティト、爆炎石も残っているだろう?」

「はい。あと5つありますが」


 ティトは拳より少し小さい朱い宝石を5つ地面に並べた。


「3つ貰っていくぜ」


 ルイスはそのうちの3つを拾うと、ポケットに突っ込んだ。


 ティトは残りの二つをポーチにしまう。


「さあて、そんじゃ、いっちょ行ってくるかな。ティト、騒ぎが大きくなったら、おまえも潜入してくれ」


 そう言って、ルイスはティトに向かって拳を突き出す。


「はい。任せてください」


 ティトは頷くと、その拳に自分の拳を軽くぶつけた。


 ルイスはニヤリと口の端をあげると、建物の影から出て、堂々と屋敷の門に向かって歩きはじめた。

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