第3話

 1時間後、ルイスとティトは、街を見下ろせる山の上にいた。

 山と言っても、小高い丘のようになっているだけだ。



 そこからなら、ハイルレンツの街全体を見下ろすことが出来る。

 当然、街の中央にあるシュトーリヒ伯爵家も良く見えた。



 ティトは、背中に背負っていた身長ほどもある長い魔銃、長距離射撃用魔銃アキュラスを膝立ちに構え、それに備え付けられている遠見筒スコープを覗き込んだ。


 この遠見筒スコープ、どういう魔法が使われているのか、ティト自身もよく分かっていない。

 かなり性能がよく、最大まで拡大すれば、1キロメートル離れた場所でも、まるですぐ近くにあるかのように拡大して見ることが出来る。


「どうだ? 居たか?」


 ルイスも自分の遠見筒スコープを覗き込んでいるが、これはティトの持つそれに比べれば数段性能が劣る。

 長距離射撃用魔銃アキュラスに付いている遠見筒スコープを真似てティトが創ったものだ。


 何も無いよりはよく見えるが、その程度だ。まだまだ改良中だった。


「うーん。あっ、いました。二階の中央の部屋です」


 ルイスは、再び遠見筒スコープを覗き込んだ。


 その部屋は、中央に豪奢ごうしゃな装飾が施されたローテーブルがあり、そのテーブルを囲むように、3人掛けのソファが二つ置かれている。


 応接室なのだろうか?

 ローテーブルには、ティーカップがだけ置かれていた。




 だが、その部屋にはの人物がいる。

 

 一人は、痩身そうしんで初老の男。おそらく彼が、この屋敷の主、エイドリアン・シュトーリヒ伯爵だろう。


 もう一人は、狐のそれに似た三角のふさふさの耳と、金色の太い尻尾を持つ、15、6歳くらいの少女。

 パウロから聞いた特徴とも一致している。

 おそらく、彼女がパウロの姉、セリナだろう。



 その二人は、のソファに並んで座っていた。



 エイドリアンは、いやらしい顔と手つきで、セリナの太い尻尾へと手を伸ばす。

 セリナは、体を硬くして、目をぎゅっと閉じている。



 エイドリアンの手が、セリナの太い尻尾に触れた。

 セリナはびくりと大きく肩をはねさせる。



 そんなセリナの反応を見て、エイドリアンの顔は嗜虐的しぎゃくてきに歪む。

 そして、尻尾を握りしめると、その手をしごくように前後に動かした。



 それに耐え兼ねたのか、セリナはエイドリアンから逃げるように、ソファから腰を浮かせる。


 しかし、エイドリアンが左手に掴んでいる鎖を引っ張ると、セリナの顔は苦痛に歪んだ。


 その鎖は、セリナの首へと伸びていた。


 セリナの首には銀色の鈍い光を放つ金属製の首輪が付けられていた。


「くそっ、酷いことしやがる」


 ルイスが吐き捨てるように言うと、ティトも奥歯を強く噛み締めた。

 ギリっと音が聞こえるほどだ。


 さらに逃げようとするセリナに対し、エイドリアンは左手の鎖を引いて、セリナの顔を引き寄せる。

 右手は、しっかりと尻尾を握りしめている。


 そして、鎖をさらに引っ張りセリナの顔を引き寄せると、いやらしい笑みを浮かべた後に、セリナの頬を舐めた。


 セリナが悲鳴をあげる。

 いや、ルイス達のところまでは聞こえないのだが、遠見筒スコープ越しに分かった。



 その時、ルイスの隣で銃声が響く。

 次の瞬間、エイドリアンたちのいる部屋の窓が粉々に砕け散った。


 ティトが長距離射撃用魔銃アキュラスの引き金を引いたのだ。


「ティト!?」

「ごめんなさい。兄さん。見ていたら抑えられなくて……」


 遠見筒スコープから目を離したティトのその瞳は、怒りで激しい光を放っていた。


「いや、あれでいいさ。俺も、あれ以上は耐えられなかった」


 そう言って、ルイスは立ち上がる。


「まあ、撃っちまったもんはしょうがない。警備を固められる前に行くか」


 言い終わらないうちにルイスは街の方へ向けて走り出していた。


「わー。兄さん。ちょっと、待ってくださいよー」


 ティトは慌てて長距離射撃用魔銃アキュラスを背負うと、兄を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る