第26話 9 ミッド・ポイント

9 ミッド・ポイント(55枚・50%)


 ちょうど50%。本の(変容の旅の)真ん中であり、第二幕の真ん中でもあります。

 1場面ビートで、次の三つのことが起きます。

 ▲1 主人公は偽りの勝利または偽りの敗北を味わう。

 ▲2 主人公が変われなかったときの代償が大きくなる。

 ▲3 AストーリーとBストーリーが、このビートのどこかで交差する。


 物語を前半と後半に分ける、その中間点〝ミッド・ポイント〟は55枚目に来ます。55枚は分岐点なのです。ただし、すべてが55枚目に書き込まれるわけではありません。


 第一幕と第二幕の終わりも重要ですが、この〝ミッド・ポイント〟も同じくらい重要です。

 あらゆるストーリー、明確に異なるふたつの部分にすっぱりと分割する、主人公の旅の「もう後戻りはできない」地点です。




 〝ミッド・ポイント〟で主人公に行動の道筋を選ぶことを強いる「偽りの勝利」もしくは「偽りの敗北」を呈してなくてはなりません。

 そうすることによって、彼の死あるいは再生を不可避のものとするのです。


 〝お楽しみ〟ビートで主人公の進む方向が上り坂か下り坂か尋ねました。

 その答えで〝ミッド・ポイント〟がどうなるべきかの答えも半分は出ています。


 〝ミッド・ポイント〟というのは、〝お楽しみ〟で選んだ道のりが、上り坂なら「最高点(絶好調)」、下り坂なら「最低点(絶不調)」に達するところです。

 なぜなら、物語を〝ミッド・ポイント〟に連れていってそこからどちらを向いて進むか決めるのが、〝お楽しみ〟ビートの目的だからです。




 主人公が第二幕の真っ逆さまの世界で上り坂を上り続けてきたのなら(ボールが何度弾むとしても)、つまり第二幕の世界は居心地の良いところというのがここまでの展開なら、〝ミッド・ポイント〟で主人公は「(実は見せかけの)最高点(絶好調)」へ到達し、一見主人公が勝ったように見える「偽りの勝利」を与えます。

 なぜ「偽りの勝利」なのか。

 物語はまだ半分しか終わっていません。

 「偽りの勝利」とはいえ、主人公はまんざらでもありません。

 もしかしたら第一幕で〝セットアップ〟された表面的なゴールである「求めていたもの」をすべて手にしたのかも。もう少しで手に入るのかもしれません。

 しかしその勝利は完全な勝利ではなく、しかも主人公はそのことを知りません。

 なぜなら、まだ真に変わっておらず、第一幕のどうしようもない主人公のままだからです。肝心要な大問題にまだ向き合っていません。

 「求めていたもの」を〝ミッド・ポイント〟でヒーローに与えることにより、肝心要な大問題に光を当てることができます。

 主人公の勝利が偽りだったと見せることで、主人公が求めていたものが表面的なものだとわかってもらえます。




 もし〝お楽しみ〟ビートでジタバタしていたのなら〝ミッド・ポイント〟には「偽りの敗北」が来ます。

 下り坂のいちばん低いところ「(実は見せかけの)最低点(絶不調)」まで下り、どう見ても主人公は敗北したかに見えます。

 求めていたものは手にできず、仮に手にしたとしても、なんの役にも立たないことに気づいてしまいます。

 求めていたものをすべてを失ったのかもしれません。

 もう諦めようと思っているかもしれません。

 なぜここで「偽りの敗北」がくるのか。「偽りの勝利」と同じ理由です。

 まだ物語は半分しか終わっていないし、まだ物語から学ぶべき教訓を学んでいないからです。

 主人公が求めたもの(表面的ゴール)を手にできずに〝ミッド・ポイント〟を迎えることによっても、主人公が直面していない肝心要の大問題に光を当てることができます。

 これによって読者に「ほら、これさえあればすべて大丈夫と思っていたものを手に入れられなかったから、主人公は自分の人生が終わったと思ってるよ!」と伝えているわけですが、物語を半分残した時点で手に入れられもしなかったその「なにか」が大して重要でないのは明らかです。

 もはやそんな小さなことにかまっている暇はないのです。




 「偽りの勝利」または「偽りの敗北」を仕掛けることで、〝ミッド・ポイント〟ビートで二番目に大きな要素を操ります。

 そう、代償を大きくするのです。


 第二幕でここに至るまでに、主人公は欠点を直し、自分を変える「機会」を与えられたのですが、その機会をちゃんと使いこなせていません。

 なぜなら、この段階ではまだ「本当に必要なもの」ではなく、「求めるもの」に導かれて行動しているからです。

 〝ミッド・ポイント〟で変われなかったことの代償を大きくすることにより、基本的に「ぐずぐずしていると、もうすぐ時間切れだよ!」と教えてやるのです。

 ここで無理やり別の方向に向いて進むように仕向けられた主人公が、やがて追い詰められて待望の変容を迎えることになります。




 〝ミッド・ポイント〟は「反対命題(アンチテーゼ)」の世界で〝お楽しみ〟まで楽しんできたのです。

 ここから「いきなり危険度がアップ」します。「タイマーの時間は迫り」決断を強いてくる。もう〝お楽しみ〟は終わり、元のストーリーに戻るわけです。


 〝ミッド・ポイント〟と対のビートは〝すべてを失って〟です。

 〝ミッド・ポイント〟は「偽りの勝利」か「偽りの敗北」かのいずれかであり、〝すべてを失って〟は正反対のビートなのでその逆になります。




 〝ミッド・ポイント〟とは主人公が立ち上がって、「よし、僕はここを乗り越えるぞ」という地点です。

 まぐれであれ、決断によってであれ、「悪い奴ら」からのプレッシャーによってであれ、主人公は前進し続けなくてはなりません。


 「悪い奴ら」といえば、ここが奴らが「迫って」き始める地点です。

 自分が主人公だと宣言することのリスクの一部は、我々が成長し、変化し、勝利するのを是が非でも食い止めたいと思う連中の注意を引くことです。

 〝ミッド・ポイント〟での悪人/善人の交錯は、その葛藤の危険度を高める鍵になります。

 〝ミッド・ポイント〟は「悪い奴が自分のライバルは誰かを知る」地点でもあるのです。


 〝ミッド・ポイント〟は主人公の秘密のパワーあるいは欠点、「悪い奴」を打ち負かす際の役割が明らかになる場でもあり、そこはまた主人公が隠れていたり、その位置が知られていないときに、「悪い奴らが主人公の居場所を知る」地点でもあります。




 代償増強法のいくつかを挙げます。


 ▲「恋愛関係の難易度アップ」

  キスなどの身体接触や、愛の告白、結婚、プロポーズという形で現れます。

  恋愛関係のハードルを上げ、ヒーローが変わってしまう前の世界に後戻りするのを格段に難しくします。

  恋に落ちたら逃げられないもの。主人公は恋愛関係をこじれさせてしまうかもしれませんが、何事もなかったふりをして逃げ出すわけにもいきません。


 ▲「秒読み開始」

  刻々と減っていく時間ほど、物語のハードルを上げて、ピントを素早く合わせ直せる道具はありません。

  爆弾があった。誘拐犯が時刻指定で身代金を要求。医師による余命二週間の宣告。三か月後の日取りで届いた結婚式の招待状。近日中に行なわれる政治家の応援演説で暗殺の予告。

  どれも小説の後半に突入していくための、緊迫感あふれる仕掛けです。

  残された時間が設定されると、途端に主人公の注意が重要なことだけに絞られ、何をするべきか考えるようになります。


 ▲「流れを覆すゲームチェンジャーのひねり」

  プロットをひねるやり方で、要するに主人公に「あんた、実は半分も見えてないのよ。あんたが本当に相手にしているのは、これ!」と伝えること。

  スリラーやミステリーの書き手が好んで使う手です。


 ▲「パーティ、祝宴、または人前に出る」

  パーティとか祝宴はハードルを上げるイベントに見えないかもしれませんが、確実に上げます。

  主人公は第二幕の世界にいるのは確かですが、世界中に向かって「自分は変わった!」と大声で触れまわっているわけではないのも確かです。

  この段階ではまだ心の一部が第一幕に残っていますから。そんな主人公を「中間点パーティ」に参加させます。

  そして大勢の前に出て、第二幕の世界の一員になったと宣言する機会を与えます。

  衆人環視のなかでいわば「カミングアウト」するので、引っ込みがつきにくくなります。




 〝ミッド・ポイント〟で3つ目に大事なのは、AストーリーとBストーリーが交差し、主人公が本当に必要なものがなにかを探るために、それまで求めていたものを手放すこと。

 でも、すぐに見つかるわけではありません。

 正確には3つ先のビートです。

 ですが代償が大きくなりハードルが上がったこのときが、主人公が今までのやり方では通用しないと悟る瞬間なのです。


 なぜなら、ここまで全然ダメでも(偽りの敗北)すごくうまく進んでいても(偽りの勝利)、主人公はまだなにかが足りないと感じているからです。


 この求めるものから本当に必要なものへの移行は、AストーリーとBストーリーを交差させることで描かれます。

 Aストーリーは表面的な物語。第一幕からずっと山場を作って読者を喜ばせてきた見せ場たっぷりの、その小説の「前提」です。

 Bストーリーは内面的な物語。Bストーリーのキャラクターが象徴する心の旅路です。

 それが交差することで、双方のキャラクターが出会ったり絡み合ったりすることがよくあります。

 これによって、目に見える形で求めるもの(表面的なAストーリー)から本当に必要なもの(内面的なBストーリー)への移行があったと合図するのです。

 たとえ読者が気づかなかったとしてもです。




 〝ミッド・ポイント〟で物語の方向が変わります。

 それによって主人公が元の世界に戻るのがいっそう難しくなります。

 〝きっかけ〟のところでも同じことをしましたよね。

 あのときも代償を大きくして、安穏とした第一幕の現状の世界に戻る難易度を上げました。


 偶然ではなないのです。

 常に代償が大きくなっていくのが、素晴らしい物語というもの。

 プロットの仕掛けを矢継ぎ早に繰り出して、主人公を常に前に進ませます。

 ハードルを上げるたびに、戻るのも困難になりますから。




▼明確な偽りの勝利、あるいは偽りの敗北があるか?

▼危険は高まっているか、タイマーは鳴っているか?

▼主人公を人目にさらし、新しい生き方を宣言することを強いる公的な場への外出あるいはパーティがあるか?




「小説の書き方」コラム

818.構成篇:ハリウッド「三幕法」(セクション8・9)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889417588/episodes/1177354054891919979


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【参考図書・引用図書】

▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』菊池淳子訳・フィルムアート社(税別2200円)

▼ブレイク・スナイダー氏『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 『SAVE THE CATの法則』を使いたおす!』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2200円)

▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの逆襲 書くことをあきらめないための脚本術』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2000円)

▼ジェシカ・ブロディ氏『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』島内哲朗訳・フィルムアート社(税別2500円)

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