第2話 手作りケーキ

「どうぞ。私はお茶とお菓子を持ってまいりますので、少々お待ちください」

「ありがとうございます」

 俺はあのあと少しドキドキしながら館のような家に入り、めちゃくちゃ広い廊下を歩いたあと一つのドアの前まで連れてこられた。


 この中に葵がいるとのことで、いつもより少しうるさい心臓に手を当て、深呼吸する。


「入るぞー」

 ノックをしてドアを開けると、椅子に座ってる葵が目に入る。


「お、おお……」

「え?何?」

 思わず感嘆の声が漏れる。

普段制服の姿しか見てないからか、その部屋着の姿はなかなか破壊力が高い。


「えっと、そこ座っていいか?」

「ええ……大丈夫」

 誤魔化すように言い、少し困惑した顔をしている葵の向かいにある椅子に座る。




 そこからしばらく時間が経ったが、俺らの間に会話は一回もなかった。

俺はなんだか気まずいし、普段葵から俺に話しかけることはあまりない。


 流石にスマホを触るのも憚れるので、手で遊んだり、足をゆらしたりしながら小林さんを待つ。


 お菓子やお茶がくれば、「これ美味しいな」から会話ができるだろう。


 それに、こんな家から出てくるお菓子がどんなもんか気になる気持ちもある。とんでもない値段のケーキがポンっと出てくるかもしれない。


 ……と思っていたのだが。


「なあ、小林さん遅くないか?」

「え?……す、少しお茶を入れるのに手間取ってるのかも」

 思わず葵に尋ねてみてしまう。

まあ、こんなに広いし、台所?とここが遠いのかもしれないな。


 そう納得し、再び沈黙の流れる空間で俺は小林さんを待ったのだった。


「失礼いたします」

 すると、軽い音と小林さんの声がドアの方から聞こえ、思わず振り向く。


「お茶とお菓子をお持ちいたしました。恵様、紅茶に砂糖は入れますか?」

「あ、大丈夫です」

 お盆の上にポットとティーカップ、ケーキと思わしきものをのせ、小林さんは部屋に入ってくる。


 あまりにも絵になる、「メイド!」な感じの姿に驚きながら、少し崩れていた姿勢を直す。


 小林さんは慣れた手つきでティーカップを俺と葵の前に置き、ポットから綺麗な赤色の紅茶を注ぐ。


「こちら、葵様と私が作ったショートケーキです。お口に合えばいいのですが」

「あ、へー……ありがとうございます」

 その次に机に置かれたショートケーキを見ながら、間の抜けた声をあげてしまう。


 手作りってことだろ?見た目お店で見るのと大差ないが……


「恵様、私も同席させていただきます。お邪魔はいたしませんので」

「え!? あ、それは全然……」

 ケーキを凝視しているところに小林さんは葵の隣の席に腰掛けながら話しかけてくる。


「あの、失礼かもなんですけど本当にこれ手作りなんですか?」

「……なに、私がお菓子作りするのが意外?」

「あ、いや……」

 小林さんに話しかけたつもりが、葵から返事が返ってくる。


「見た目がお店みたいだから、ちょっと驚いただけだって」

「そ、そう……」

 再び気まずくなってしまう。

せっかく家に招いてもらったのに、俺が気まずくなってるせいで全然話せていない……


「だ、だったら、食べて味も確認してみてよ。凛に手伝ってもらったのにから、美味しいと思う……」

 そういつもと違う、元気のないか細い声を発する葵を見て、ドキッとしながら急いでフォークを取った。


 ケーキをフォークで縦に切って一口分取り、口に運ぶ。


「ん……美味い!」

 まずいショートケーキを食べたことがないし、どこがいいのかと聞かれると困ってしまうが……

味はよく母親が買ってくるお店のものと遜色なかった。


「……ん?」

「ど、どうしたの?」

 しばらく咀嚼していると、口の中に知らない味が残る。


 不味くはないが、少なくとも美味しくはない。なにか隠し味に入れていたのだろうか?

とはいえ、それ以外のケーキの味が美味しいことには変わらない。このくらい気にせずに食べられる。


「いや、なんでもないよ。味もお店とマジで変わらないな」

 そう言うと、不安そうにこちらをみていた葵な表情が晴れ、ため息をつく。


「そう……ならよかったわ……」

 そこまで不安だったのか、ともう一口ケーキを口に運ぶ。

やはりあの味はあるが、そこまで気にならないし、その後に紅茶を飲めば全く分からなくなるので問題ないだろう。


 一体何の味なのか、それはケーキを半分食べ進める頃には俺の思考から抜け落ちていた。

 






 



 


 



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可愛くて、お嬢様の幼馴染(両思い)に監禁されたけど、別に問題なさそう かなえ@お友達ください @kanaesen

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