可愛くて、お嬢様の幼馴染(両思い)に監禁されたけど、別に問題なさそう

かなえ@お友達ください

第1話 幼馴染に家に招待された

「……え!? 今なんて?」

 隣から聞こえてきた突然の言葉に、俺、佐藤恵さとうめぐみは反射的に聞き返してしまう。

別に聞き取れなかったわけではないのだが、あまりに驚きすぎて気づいた時には言葉が出ていた。


「だ、だから……! 私の家に来ないって言ってるの!」

 そう少し俯きながら言うと彼女、橋本葵はしもとあおいは歩くスピードを上げ、俺より前に行ってしまった。


 やはり聞き間違いなどではなかった。

胸が高鳴るのを自覚しながら、早歩きをしている葵に返事をしようとする。


「むしろ、行ってもいいのか?」

「はあ?」

 止まって振り返り、怪訝そうな顔をする彼女を見て、しまったと口を押さえる。

こんな言い方せずに、ありがとうお邪魔させてもらうよだけでいいだろうに……


 しかし、俺の中に疑問があるのも事実だった。ここで聞いてみてもいいかもしれない。


 葵はみんなに対してかなり冷たい。当然、そのみんなの中には俺も含まれている。


 俺は葵とは幼馴染で、しつこく話しかけているからか、他の人と比較したら随分葵と仲はいい……と思う。

しかし、それにしても家に誘われるほどではなかった……と思っていた。


「行っていいのかって何?」

「いや……その、そんなに仲のよくない男子を家に入れてもいいのかなって……はは」

 言ってる途中で気まずくなってしまい、わざとらしい笑いで誤魔化す。


 すると葵は先ほどまでの怪訝そうな表情を崩し、少し悲しそうな顔になる。


「仲良くない男子を家に呼ばないでしょ……」

 ギリギリ聞こえるくらいの声量で、震えた声で葵は答えてくれた。もしかしたら一人言だったのかもしれない。


「……お邪魔させてもらうよ」

 あえて葵のには触れず、断る理由もないので承諾する。葵は少し微笑むと、すぐに隠すように再び前を向いた。



「その、準備があるからちょっとだけ待ってて」

 まるで漫画の世界にありそうな大きな門の前で葵に言われた通り俺は待っていた。

門の隙間から覗いてみると、庭の先にはこれまた漫画で出てきそうな、屋敷のような家が立っている。


「相変わらずだな……」

 葵の家に来たのは小学生の時以来か。

あの時は今ほど葵は冷たくなく、とても仲の良い幼馴染だった。


 しかし、家に呼んでくれると言うことはもしかしたら態度が違うだけで、彼女はあまり変わらずそれなりに好感を持ってくれているのかもしれない。


 そうどこかふわふわした気持ちで待っていると、ポケットに入れていたスマホが着信音と共に震えるた。


 少しびっくりしながらポケットからスマホを取り出し、「葵」と書かれた画面をスワイプして着信に応じる。


「終わったのか?」

「うん。メイドが迎えに行くから、その子と一緒に来てくれる?」

「あー……分かった」

 そう言って電話を切り、再び門の方に視線を向けると、ゆっくりと開いていく。


 そしてその奥から、いわゆる「メイド」の格好をした女性がこちらに歩いてきていた。


「恵様、ご無沙汰しております」

「お久しぶりです」

 顔が分かる距離まで来た女性の声を聞いて、やはりと思いながら返事をする。


 彼女は小林凛こばやしりんさん。その整った顔つきは、俺が小学校の頃この家に遊びに来た時と全く変わっていないように思えてしまう。


 彼女は葵の世話をしているメイドだった。そして、今もそれは変わっていないのだろう。


「この度は葵様のお誘いに応じていただき、誠にありがとうございます」

「いえいえ……! そんな感謝されるような事じゃないですよ!」

 深々と頭を下げられながら感謝されてしまい、困惑してしまう。むしろ誘ってもらったこちらがお礼を言うものな気がするが……


「それでは行きましょうか」

「あ、はい」

 スッと頭を上げた小林さんは、踵を返してそそくさと先ほど歩いていた道を戻っていく。俺も少し早歩きで小林さんの後を追う。



「はあ……」

 しばらく歩いていると、やにわに小林さんはため息をつく。俺は少しビビりながら、沈黙も気まずいので話しかけることにした。


「その、俺が来たのって迷惑でしたか?」

「あ……いえ! そういうことではなく!」

 前を向いて俯いていた小林さんはこちらを向くと、すこし焦った様子を見せる。


 正直、あんなため息をつかれるとそういうもんじゃないかと思ってしまうのだが……


「恵様が来てくださったことは本当に感謝しています。しかし、この後大事な仕事がありまして……」

 俺のイメージであった無表情な感じはすっかり消えて、今度はかなり疲れてそうな顔を見せる。


 正直、メイドの仕事なんてよくわからない。下手なことは言えず、そうですかと相槌を打つ。


「……恵様、一つ質問をしていいでしょうか?」

「え?」

 小林さんは立ち止まると、少し鋭い声で話しかけてくる。俺も慌てて立ち止まる。


「ま、まあ。別に構わないですよ」

「ありがとうございます」

 なんだか真剣な雰囲気を見せる小林さんに、少し緊張してしまう。


「不躾を承知で聞きますが、恵様は葵様のことをどう思われていますか?」

「え!?」

 先ほどまで張り詰めていた緊張が糸が切れたようになくなり、素っ頓狂な声を上げてしまう。

葵をどう思っている?


「そ、それはどういう?」

「……いきなり失礼いたしました。葵様のことを良く思っているか、悪く思っているかお聞かせいただきたいのです」

 変な汗が走り、少し黙り込んでしまう。

バレているのか……?


「その、そういうことでしょうか……?」

 心臓の音と尋常じゃない焦りのせいで、何か言っている小林さんの言葉に返事ができない。


 小林さんはなぜこんな質問をしてきた?


 俺は葵のことが好きだ。だからしつこく思われても仕方がないくらい話しかけていたし、今回家に誘われたことがとても嬉しかったのだ。


 嫌な思考が頭を支配する。もしかして、俺の好意がバレていて、許嫁がいるから……だとか断るために俺を呼んだのだろうか……


 許嫁とかよく分からないが、葵はお嬢様だ。当然そんなことがあってもおかしくないだろう。(漫画でつけた知識だが)


「……恵様、葵様が待っていらっしゃるので、行きましょうか」

「え……? はい……」

 顔を上げると、スマホ持ちながら先ほどのようなすこし疲れてそうな顔をしている小林さんが目に入った。



 こうして俺はしょんぼりしながら、デカい屋敷の前に着くまで、小林さんの後ろを付いて行ったのだった。


「恵様、すみません……」


 そんな半分漏れてしまったような凛の言葉は、勝手にダメージを受けている恵の耳に届くことはなかった。


 





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