第1休 エスパーの休日

ゴルフコンペから3週間後、4課は同じような事業をたくさん達成し続けていた。

もちろんわかるように、4課の株は会社内で上がり続け、ゴルフコンペの1週間後にこの間の甘利の発言も、開発部の口添えで取り消された。

そして何より気分がいい。部長を差し置いて目立てているのだ。こんなにうれ…

「ねぇ、パパ、なんかいいことでもあった?顔こわいぐらいに、にやけててちょっとキモイんですけど」

俺の可愛い娘、桜が話しかけてくる。

「そ、そうか?そうみえるか?」

「はっきり言って不気味」

「……」

娘の言葉に言葉を失わされる。

「ちょっとお父さん?休みからってくつろぐのもいいけど、早く朝飯食べてくれない?桜も今日早く高校行くんでしょ?7:30までならもう出ないと間に合わないよ」

「はいよ」

そう、今日は仕事が休みの日である。

ひとまず朝食を食べよう。



––––1時間後

「ああ、暇だ」

家族は誰1人として家にいない。

聞こえてくるのはご近所さんの心の声ぐらいだ。

𝑹𝑹𝑹𝑹𝑹𝑹…

電話が鳴り、番号を見ると俺の実家だった。

「もしもし…」

『おお!三晟か…おい、会社はどうした?』

「今日は休みだよ…。ところで何の用だ?おやじ」

『圭太はおるかの?うちに来んかなと思ってな』

「いねぇけど、畑仕事手伝ってもらうつもりか?」

『ま、そんなところじゃ』

「じゃあ俺が行こうか?もう少しでお盆だし、会いにこうかなと思ったしな」

『そりゃ、鶴輝つるきもよろこぶわい』

「じゃ、30分ぐらいあればつくかな」

『まってるぞい!』

そう言って電話を切った。

車は母さんが乗ってってしまったし、電車で行くか。


実家は、荻窪おぎくぼにある。うちは日暮里だ。

山手線で、新宿まで乗り、その後、丸ノ内線で荻窪まで行く。

山手線はよく使うので乗りなれている。荻窪まで行くときはいつも丸ノ内線か中央線を使う。丸ノ内線だと、荻窪は終点なので楽なのだ。中央線だと荻窪まで5駅だが、丸ノ内線だと7駅ある。疲れ気味の俺にはいい睡眠時間にできる。

そうこうしているうちに日暮里駅に着いた。

そこから荻窪まで揺られていった。


―――実家に無事についた。

インターフォンを鳴らすことなく、うちに入ると、

「よく来たな三晟。さああがれ」

「その前に会ってくるよ」

「そうか」

そう言って俺は鶴輝に会いに行った。


リビングに入ると、おふくろが料理をしていた。

懐かしい…煮物の匂いだ。うちの煮物は食べられるが売り物にならない野菜の煮汁を使うのでとてもやさしい味わいがするのだ。

「おふくろ、久しぶり」

「みっちゃんいらっしゃい」

おふくろは俺のことをみっちゃんと呼ぶ。

「早速だけど畑に行ってくるな」

「いってらっしゃい。おいしいご飯作っとくわね」

やさしい笑顔でこちらに微笑む。

畑へ出かける準備をしていると、おやじが話しかけてきた。

「よし、俺も行くか」

「親父はだめだ。この間ギックリ腰になったばっかだろ?」

「どうしてそれを?」

「変な歩き方をしてる。その歩き方は腰をかばうような歩き方。だからギックリ腰にでもなったんじゃねぇかと思ってな。ま、ギックリ腰が治ってその歩き方癖になってるだけかもしれないけどな」

⦅さすがミステリーヲタクじゃな⦆

オヤジの心の声が聞こえた。自分も行きたかったといわんばかりも目でこちらを見る。

「ともかくおやじは家で休んでろよ…」

自分ではよくわからないが、俺は洞察力がいいらしい…。昔、探偵にあこがれたこともあったな。


オヤジに収穫を頼まれた作物のメモを見る。

トマトとナス、ピーマン等々夏野菜ばかりだ。でも収穫量がさすがに一人位でやるには多すぎる。まあ、それは俺が常人だった場合だが…。

そう、エスパーの観念動力テレキネシスを使えばこの程度の収穫は簡単である。

最近いろんなもので練習していてわかったことだが、観念動力テレキネシスに必要なパワーは『動かす物体の質量(㎏)×1/4』で求められることが分かってきた。

そう、つまり、現実で持つと10㎏あるものでも、2.5㎏を持つ力で観念動力テレキネシスは持つことが出来る。しかも、指の本数、つまり十本までなら、力を分散しても、その計算式は変わらず稼働させることが出来る。なんて便利なのだろうとついつい使ってしまう。

左手はトマト、右手はナスの収穫に回す。精神感応テレパシーで何となく、野菜の質がわかる。「植物にも命があるんだよ」とおばあちゃんが言っていた意味が何となく分かった。

トマトは親指でかご、残りの指でプチプチと収穫していく。人差し指と中指で中玉トマトを、薬指と小指でミニトマトを収穫していく。ナスははさみを使わないと収穫が出来ない。親指と人差し指ではさみを持つ。中指はかごで、薬指と小指でナスを支える。

我ながらなかなか手際がいい。そんなことを考えているうちに大部分の収穫が終わった。

スマホのアラームを11時半にセットしておいたがまだ鳴らない。

「こんなに早く帰ったら変に思われそうだな」

そう思い、畑の近くの川辺へと寄った。この川辺ではよく遊んだ。

ふと、自分の視界が濁ってしまった。


―――スマホのアラームが鳴ったので家に戻ることにした。

家の近くまで来ると、おふくろのやさしいご飯の匂いが漂っていた。

昼ご飯を食べ、軽トラックから、野菜を降ろした。

「じゃあ、三晟、ここまでで十分だ。ありがとう」

「全然いいんだよ。久しぶりにこの辺に来て楽しかったしよ」

「ほれ、これ持ってけ」

そこには俺の収穫した野菜が紙袋いっぱいに入っていた。

「ありがとな」

そういって俺は帰路についた。

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一晩寝たらエスパーだったおじさんです。 兎月 @Hiro_Rabbit

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