第2勤 エスパーの営業!

会社を出ると、目の前に丁度タクシーがあった。それに乗り込み、

厚木あつぎ工務店ってわかります?そこまでお願いします」

「かしこまりました」

厚木工務店は俺が入社したころからの付き合いだ。いろいろとお世話になっている。

「ありがとうございます」

到着して、ICカードを使い料金を払うと、すぐに工務店の店長、厚木さんが出迎えてくれた。

「今回はどういったご用件で?」

「SACとの経営を今回解除しようかと思いまして」

「え?それはどうして」

「先日、妻が亡くなりまして、お花はありがとうございました。経営の存続が難しくなったのでそろそろ店じまいをしようかと」

「後継者がいないということですか」

「はい…」

現在、中小企業の後継者不足は深刻だ。中小にしかない優れた技術が失われ続けている。

「そうですか…。じゃあご相談があります。実は我々の会社が抱える中小企業で後継者がいなくて困っているところがたくさんありまして。それぞれにしかない良さがあります。わが社では今そういった企業への対応として、社内の開発部に中小企業さんと一緒に仕事をする部署があります。同じ後継者不足で悩んでいるところと連立して、仕事をされてみてはどうですか?」

「でも、別の企業となんてかかわったことないですし…」

今こそ心を読む時だと思った。

何かきっかけになるものを探り出せ!

⦅ゴ…ルフ…⦆

かすかに聞こえた。

「厚木さんてご趣味でゴルフをやってらしたりしますか?」

「ええ、まあ。どうしてそれを?」

「なんとなくです…」

にっこりと微笑み、

「ほかに企業さんにもゴルフがご趣味な方がいらして、今度一緒にされてみてはどうですか?」

「ゴルフコンペ、ということですか」

「わが社が全力でサポートします」

そういって厚木工務店を後にした。


会社に帰り一息つくと、

「小寺、ちょっと話がある」

甘利部長に呼ばれ、部長室に入る。

「何でしょうか」

「今度中小とともにゴルフコンペを開くそうだな。どういうつもりだ」

「もうお耳に入ってらしたんですね」

そういって一連の流れを話す。

「確かに開発部とそういう話は進めてはいるが、勝手にゴルフコンペなど開くなよ。経費は落とさんからな」

「もちろんいいですよ、その代わり、今回のコンペで、いい結果が出た場合には今後は経費を出してもらいましょうかね…甘利…」

「フン、いいだろう」

甘利はもともと子会社の出身なので営業をしたことがある元部下だ。甘利と呼ぶ癖が時々抜けない。

まあいい。ゴルフコンペを勝ち取った。絶対に成功させてやる!


―――コンペ当日

SAC営業部からは、俺と有間川、それともう一人。なかなかの切れ者の新入社員、鳴門なると。そして、厚木工務店、菅沼すがぬま製作所、葉隠はがくれ総合事業所から社長と社員らがぞろぞろと来た。

「ルールはいたって簡単!スクランブル方式で始めます!各ホールごと打てる人は3人までとします!」

俺が説明をした。

「先輩!6インチOKってなんすか?スクランブル方式は知ってますけど…」

鳴門が有間川に質問する。

「打つことが困難な場所にボールがあるとき、6インチ、つまり約15cmまでならボールを動かしてOKですよ、というルールのことだよ」

「へぇ~」

ゴルフコンペは順調に進んでいくかと思いきや、みんなうまく打てない。

上空の風が強いようだ。それを読み切って打っているのは鳴門ぐらいだ。

このままではコンペは失敗に終わる。

そう見切り、有間川が

「秘策を放つしかなさそうですよ」

「そうだな」

俺たちがそう話した後から、ほぼ全員の軌道がとてもよくなる。

「厚木さんすごいっすね!」

「菅沼さんもっすよ」

「葉隠さんには恐れ入ります」

今までの暗い顔はどこかへと行き、一気に笑いがこぼれる。

「大成功っすね」

「ふぅ~。練習しといてよかったな」

実は有間川と、事前にここにきてあることをしていた。

思い出してほしい。小寺はエスパーである。エスパーは精神感応テレパシー観念動力テレキネシス瞬間移動テレポーテーションの3つの能力が使えることで有名だ。

もうお気づきだろうか。そう。観念動力テレキネシスを使い、ボールをうまく操作していたのだ。

コンペまでの間有間川と毎日練習場に通いつめ、観念動力テレキネシスの練習をしてきた。

「こんな営業エスパーにしかできませんよ!」

「だな!」

見事にもコンペは大成功を収める形となった。

結果は…SAC最下位…だったがな…。


数日後、開発部との協力を経て、厚木工務店、菅沼製作所、葉隠総合事業所は経営統合し、SACに大きな利益をもたらした。

ここから、エスパー小寺の営業物語が始まった。

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