第1勤 なんじゃこれ
有間川と部長解雇の話をした次の日、本当に勝野部長は解雇された。
同日、次期営業部長の発表が社長から行われた。
「えー、次期営業部長は4課課長の小寺としたかったんだが…」
「はぇ?」
思わず変な声が出てしまった。
「すまんな小寺。君が4課課長から外れたらそのあとの課長候補が見当たらなくてな、よって1課課長
「ちょっと待ってください、社長。4課課長に当てはまる人なら4課にはたくさんいますよ。僕は彼を推薦します、有間川を。彼は4課でもエースです」
「ああ、私もそれは考えたが、有間川は、子会社営業指導の経験がない。課長にはどうしても向かん。まあ4課の子会社営業指導係長が今回解雇されたから、有間川をそこに入れるつもりだ」
その日一日ショックで何も仕事が頭に入らなかった。
夜は有間川に居酒屋に付き合ってもらった。
「いやー!うれしいったらありゃしないっすよ!係長昇進だなんて!」
「良かったな……」
「係長は平社員の1.5倍の給与、課長は2倍の給与だからいいじゃないすか」
「部長は平社員の3倍の給与だがな。ってか、俺は入社20年目なのになんで入社12年の甘利が部長で、入社6年目のお前までもが係長なんだよ!!」
「すみませんねぇ。その上、人事部、開発部、経理部、総務部、営業部の部長は取締役会や会計監査会にも出席して、それぞれに出るたびにボーナスが出る。やっぱ課長と部長の境目は、すごいっすね」
「前回、2課の勝野のじじいにとられたときはビビったぜ、2課がとれるなんて思ってなかったからな」
「まあ、今日は飲んでください!明日は課長午後出勤でしょ?」
「そうだな!」
―――次の日
(頭いてーぇ!昨日は飲みすぎたな。ったく、有間川がめっちゃ飲ませるからよ)
そんなことばかり考えて起きてくるともう家族は皆いない。ふと時計を見上げると8時半。午後出勤の日は朝飯は用意されていない。自分で作れという意味だ。
料理を始めようと腕をまくり蛇口に手を伸ばしたその時
「なんじゃこれ!」
思わず大きな声が出てしまった。家族は誰もいないがなんだか少し恥ずかしい…。
大きな声を上げた理由は左の手首に目の形の
目をこすったり、水で流したり、泡でしっかりと流したが、落ちない。
「ったく、なんなんだよこれは…」
ひとまずいつもつけている腕時計で隠せそうだったが、このマークは何なのか全く分からなかった。
午後1時になり会社に到着する。
早速、デスクのパソコンを開き、取引先と電話をする。
いつも通り有間川が話しかけてくるが今日はいつもと少し違かった。
有間川が話してもいないのに有間川の声が聞こえた。
(これは、有間川の心の声?)
俺はそう思った。
⦅ったく、甘利のじいさんも変なこと言いだしたよなあ⦆
「甘利がなんて言い出したんだ?」
思わず聞いてしまった。
「え?どうして、おじさん甘利部長のこと考えてるってわかったんですか」
追い込まれた俺は今日の一連の話をする。
「そういえば、今日は絶対に間に合わなそうだった駆け込み乗車も、なんでか気がついたら乗ってたな」
「それってエスパーじゃないすか?」
「えすぱぁ?」
「しらないんすか?ほらえーっと、人間の知覚以外の力、
「なんとなく知ってた気がする」
「じゃあ物は実験です!おじさんはボクが今から考えることを当ててください!」
「ああ」
言われるがままにあまりの心の声に耳を澄ませる。
⦅おじさん!今夜居酒屋おごって!⦆
かすかだが、こう聞こえた。
「わかりました?」
「あっているかはわからんが」
「答えは何ですか」
「あまり答えたくない内容だな。『おじさん!今夜居酒屋おごって!』か?」
「すご!あたりっすよ」
「もちろんだが、きょうはおごらん。昨日はお前がおごってくれるとか言いながら、結局お前が飲みすぎて払ってねぇじゃねぇか」
「ははは、そうでしたね」
有間川が苦笑いをする。
「あ、そうでした!甘利部長が、変なことを言い出したって話!」
「ああ、何だったんだ?」
「2課に4課の中小を譲渡し、そのまま、2・3課の統合を図るとか言い出したんすよ!」
「はあ?」
「それに1課課長、2課課長が賛同。3課は否定を続けています」
「確かに営業部の連立を図る中では得策だし、1課にとっては営業をまとめやすくなる、2課は仕事が増える、一方で3課は2課に対して立場が職務譲渡によって立場が弱くなり、統合したら元2課が立場上強くなる。4課としても、仕事が減る上、中小を扱ってきたのは俺たちだ。3課とともに反転攻勢をとれ」
「はい!って、それを伝えるのは課長の仕事でしょ?」
「実はな、たった今取引先から連絡が入った。行ってくるからよろしくな」
「わかりましたよ」
「じゃあな」
荷物を早急にまとめ、すぐに会社を出る。早速、このエスパースキルを使ってみるか。
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